やさしい経済学―産業政策の新潮流

第4回 国際ルールに影響する中国

安橋 正人
コンサルティングフェロー

中国は1978年の「改革開放」の頃から、産業政策に関心を持っていたとされています。中国政府はその後も、市場の役割を認めつつ、産業そのものを国家が誘導するという方針を維持しました。

中国の産業政策が大きく関心を集めたのは、2015年に発表された「中国製造2025」です。「世界の工場」の地位を獲得した中国の目標は、中国企業の外国技術への依存を低下させ、独自の技術革新能力を高めることに移りました。ロボットや航空宇宙などの重点分野において、世界の製造強国への転換が明確に示されました。

中国の産業政策の特徴は、補助金や融資などの規模が大きいだけでなく、電気自動車(EV)でみられるように、積極的に市場の需要拡大をはかってきたところにあります。企業間の分業や産業集積が促され、技術改善やイノベーションといった産業のダイナミズムが生じました。

他方で、多数の企業が市場に参入して激しい競争が起こり、過剰生産や価格低下をもたらすという負の側面もあります。

中国の動きは世界各国にも影響を与えています。米マサチューセッツ工科大学のデビッド・オーター教授らの研究によると、中国製の安価な工業製品が米国市場に急速に流入した結果、米国の製造業で顕著に雇用が失われ、競合する製造業への依存度が高い地域に影響が集中しました。

各国が世界貿易機関(WTO)のルールの下で発動する貿易救済措置では、中国からの輸入品が主要な対象となる傾向が強まっています。欧州連合(EU)は、補助金から不当な利益を得たと判断した中国製EVに対して相殺関税を導入し、米国も通商法301条に基づき関税を大幅に引き上げています。

WTOは補助金を受けた輸入品によって国内産業に損害が生じた場合、相殺関税を課すことを許容しています。しかし、補助金によって生産能力が確立された後のコスト優位性によるマイナスの影響を十分に規律するものとはなっていません。中国の産業政策は、国際貿易ルールにも新たな議論を引き起こしています。

2026年8月5日 日本経済新聞「やさしい経済学―産業政策の新潮流」に掲載

2026年9月10日掲載

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