やさしい経済学―産業政策の新潮流

第3回 特定産業支援に回帰した日本

安橋 正人
コンサルティングフェロー

日本の産業政策は、大きく4つの時代を経験してきました。

第1は、戦後復興期から高度成長期にかけての時代(1945〜60年代)です。特定の産業分野に支援を選定する「ターゲティング政策」により、政府は重化学工業を重点的に育成しました。特定産業の資本蓄積と産業高度化を促す一方で、60年代以降には、石炭などの産業調整や合理化政策の重要性も増しました。

第2は、安定成長と国際摩擦の時代(70〜84年)です。高度成長後の安定成長下で知識集約型産業への移行に迫られ、先端技術産業の地方集積を目指す「テクノポリス構想」が進められました。通商産業省(現経済産業省)を中心にターゲティング政策も継続し、次世代半導体の国産技術の確立も目指されました。

第3は、構造改革の時代(85〜2008年)です。外圧もあって構造改革路線へと転換し、通信の民営化・自由化や航空分野での規制緩和が進められました。「小さな政府」のスローガンの下で、競争環境整備や市場機能強化に重点が置かれました。その一方で、特定産業を支援する伝統的な産業政策への関心は失われることになりました。

第4は、危機への緊急避難的な対応が前面に出た時代(09年以降)です。世界金融危機、東日本大震災、コロナ・パンデミックと、日本は数々の危機に襲われました。急激な需要ショックを緩和するために、補助金による内需拡大策や雇用調整助成金の特例措置・拡充などが実施されました。

こうした時代を経て、経済産業省が21年に公表した「経済産業政策の新機軸」では、長期かつ計画的な産業政策への転換を提起しました。25年に発足した高市早苗政権では、人工知能(AI)、半導体、造船などを含む17の戦略分野で、官民連携投資を進める方針を示しています。これはかつてのターゲティング政策への回帰と言えなくもありません。

ただし、日本だけがこのような産業政策を策定しているわけではなく、中国や米国など他国の政策も影響しています。次回以降は、世界の産業政策の動向を見ていきます。

2026年8月4日 日本経済新聞「やさしい経済学―産業政策の新潮流」に掲載

2026年9月10日掲載

この著者の記事