高齢者に対する介護や世話といったサービスの提供も、家庭や家族の機能の一つです。
厚生労働省の「国民生活基礎調査」では3年に一度、世帯の介護に関する事項を調べています。2016年の調査では世帯員に介護が必要となったとき、誰が介護しているかがわかります。要介護者との続き柄では配偶者(約25%)、子(約22%)、子の配偶者(約10%)の順で、全体の約6割が同居の家族です。介護保険が導入されて15年以上を経た現在でも、事業者は1割強にすぎません。
性別では7割近くが女性です。介護は社会全体が担うとの考えで00年に公的介護保険が導入されましたが、今日でも妻や娘、嫁を中心に介護が担われていることがわかります。
介護には大きなストレスや負担が伴います。同調査では介護者がどんな悩みやストレスを抱えているのかも調べています。同居の主な介護者の68.9%が日常生活での悩みやストレスが「ある」と答え、「ない」は26.8%でした。悩みやストレスの原因で最多は「家族の病気や介護」でしたが、男性の73.6%に対し女性は76.8%に達します。女性が高くなっている点にも注意が必要です。
筆者らも、経済産業研究所や一橋大学、東京大学が実施している「くらしと健康の調査(JSTAR)」の中高齢者(50歳以上)のデータをもとに、家族介護を行うのが妻か夫かと、介護を受ける側が自分自身の親かそれとも配偶者の親かを、区別して調べました。差は小さいものの、妻は介護することで身体的・精神的に悪影響を受けていることが確認できます。特に女性では配偶者の両親の介護の場合に影響が大きくなります。一方、男性では介護するのが配偶者の両親であっても自分の両親であっても、精神的状態に大きな差はありませんでした。
現在の日本で、公的介護保険ですべての介護サービスを賄うのは難しいと考えられ、家族による介護は今後も不可欠でしょう。次回は、家族による介護がどのような動機でなされているか、なぜ家族に負担が生じてしまうのかを考えることにしましょう。
2020年1月27日 日本経済新聞「やさしい経済学―家族の変化と社会保障」に掲載