やさしい経済学―家族の変化と社会保障

第4回 子どもが持つ経済的意義

若林 緑
リサーチアソシエイト

日本の少子化は急速に進んでおり、近年の出生数は年間100万人を割り込んでいます。戦後すぐの第1次ベビーブーム期には約270万人、第2次ベビーブーム期には約210万人だったことと比べると大変な落ち込みです。

子どもを持つという選択を経済学的に考えると、両親がトレードオフに直面していることを認識しなければなりません。子どもを持つかどうかの意思決定に際して、費用と便益を比較することです。

育児や教育には金銭的費用がかかります。また両親がともに働いている場合、子どもがいなければより長時間働けるので、子どもを持つことの機会費用がとても高くなります。便益としては、子どもを持つこと自体から得られる満足のほか、将来の労働や介護など老後の支えが期待できます。両親は子どもを持つことによる便益が費用を上回ったときのみ、もう1人子どもを持つことを選択します。この限りにおいて、経済学的には子どもの数が「少なすぎる」ことはなく、適切な数の子どもが生まれているといえるので、少子化は問題ではありません。

では、子を持つという行動は社会の第三者に便益(もしくは費用)をもたらすのでしょうか。つまり子どもに外部性はあるのでしょうか。日本の公的年金制度は、勤労者世代が支払う税や保険料が高齢者世代の給付に使われる賦課方式です。すなわち、子どもをもう1人産むことは、親以外の第三者の生活をよくする便益を発生させます。

少子化は社会的に問題だとの主張がなされますが、そもそもそうした主張は、公的年金が賦課方式となっていることに起因します。親が希望する子どもの数よりも、制度を維持するために必要とされる子どもの数が多くなるためです。自分が将来受け取る年金を積み立てておく積立方式では、支払った年金保険料は将来自分が受け取るので、第三者の便益にはなりません。したがって外部性は発生せず、子どもの数が少なすぎるとはいえないのです。少子化が問題だという議論に、経済学的な根拠を見いだすのはなかなか難しいように思います。

2020年1月23日 日本経済新聞「やさしい経済学―家族の変化と社会保障」に掲載

2020年2月10日掲載

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