やさしい経済学―家族の変化と社会保障

第3回 単身者と「老後の備え」

若林 緑
リサーチアソシエイト

すでに述べたとおり、近年は未婚化・晩婚化が進んでいます。もちろん現代の結婚は自分たちの自由意思が前提です。しかし未婚や非婚を選んだからには、結婚のメリットの一つであるリスクを保障する機能(夫婦の一方の所得が低下した場合に他方が保障する)が使えなくなります。単身でいる人々は、所得が低下するリスクを配偶者とシェアすることができないため、配偶者がいる人と比較して高い不確実性に直面することになります。

もちろん単身者も、降りかかってくるリスクに対して無防備なままではなく、様々な手段で対処しています。その一つが貯蓄です。将来の所得が低下するリスクに備えて、貯蓄や金融資産を積み増しておこうということです。

筆者と国立社会保障・人口問題研究所の暮石氏は、家計経済研究所の「消費生活に関するパネル調査」における日本の若年女性サンプルを使って、どのような目的で貯蓄するかを調べました。この調査では「ここ3年以内の結婚する見込み」を聞いているのですが、主観的に結婚する確率を低く見込んでいる女性ほど、病気や災害といった緊急事態や、老後生活に備える「予備的貯蓄」の目標額を高く設定していることがわかりました。

女性の単身者の場合、老後の生活が経済的に苦しくなるケースが多いようです。日本の高齢者の収入のほとんどは、公的年金など社会保障給付になります。女性の就労は増加していますが、パートやアルバイト、派遣など非正規雇用で働くことが多いため、加入期間の短さや低賃金にともなって、低い給付水準にとどまっています。厚生労働省の「年金制度基礎調査」(2017年)でみても、男性の年金額は200万~300万円が約42%で最も多いのに対し、女性では、50万~100万円が約41%で最も多くなっています。

単身者は既婚者と比較して、自分たちが高い不確実性に直面しているため、貯蓄が必要ということを自覚しているようです。単身者がよりスムーズに将来の貯蓄を積み増し、年金額を高めることができるような制度改革が望まれます。

2020年1月22日 日本経済新聞「やさしい経済学―家族の変化と社会保障」に掲載

2020年2月10日掲載

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