単身世帯の増加とその背景にある未婚化を理解するために、なぜ人々は結婚し、家族を形成するのかをみておきましょう。
結婚を経済学の観点からみると、結婚し世帯を構成することには何らかのメリットがあり、そのメリットがデメリットを上回ることが考えられます。メリットとしてまず挙げられるのは「家庭内生産物」で、子どもや愛情が当てはまります。一般的には結婚したパートナー間でしか生産できないので、結婚し世帯を構成することになります。
また比較優位の原理から、夫婦の一方が家庭外で働き、他方(つまり配偶者)は家事・育児・介護など家庭内のことを中心に担当するという分業で、夫婦がともに生活水準を向上させることができます。共働きの場合でも、それぞれが得意分野を担当することで同様の効果が得られます。
さらに、結婚して家計を形成すれば規模の経済性を享受できます。家や家電など耐久消費財の多くは、妻が利用しても、夫の利用できる量が減らないことが多く、家庭内でこれらの財は非競合的な性質を持ちます。この意味で子どもも非競合的な財といえます。
加えて、夫婦は互いによく知っているので、情報の非対称性によるモラルハザードの問題を軽減できます。例えば、将来の所得を高めるために資格学校に通いたいと思ったとします。金融機関は担保なしでは費用を貸してくれないかもしれません。しかし、配偶者は相手の行動を効果的に監視できるので、安心してお金を提供できます。
最後に所得低下リスクの保障機能を挙げておきます。夫婦のどちらかが失業や病気、ケガで働けなくなっても、他方が働きに出たり、働く時間を増やしたりすれば所得低下をカバーできます。家族の形成で保険をかけているわけです。
以上の5つのメリットが、自由な時間やプライバシーが持てない、人間関係が煩わしいといったデメリットを上回るのであれば、結婚し家族を形成すると考えられます。結婚しない人が増えてきた背景には、結婚のメリットがデメリットを上回らないと感じる人が増えたことがあります。
2020年1月21日 日本経済新聞「やさしい経済学―家族の変化と社会保障」に掲載