今回は「雇用の未来」に政府主導で取り組むドイツの動向を紹介します。ドイツは製造業が主力産業で、その国際競争力の強化を目指して「インダストリー4.0」プロジェクトを進めています。同国は労働組合の力が強く、雇用問題は産業競争力を大きく左右しかねない重大な問題です。
ドイツは2013年4月に全自動無人化工場などの「インダストリー4.0」構想を発表しました。そのわずか5カ月後、多くの雇用が機械に代替されうるとしたフレイ&オズボーンの論文が出たため、「国内は一種のパニック状態になった」といいます。同国最大の労働組合IGメタルが敏感に反応し、労働社会省が「労働4.0」プロジェクトを立ち上げました。
同省の労働市場・職業研究所(IAB)は16年、デジタル化の進行に伴いドイツ国内では、35年時点で1460万人の雇用が失われている一方、1400万人の雇用が創出されているとの推計を発表しました。IABはデジタル化が進んだ企業を調査し、人間も仕事も高い柔軟性が要求され、デジタル化が進んだ企業ほど高いコミュニケーション能力や対人能力を持った人材を求めているという調査結果も発表しています。
一方、フラウンホーファー研究所は将来の雇用者数の推計は出さず、「技術の進歩に対応できない人は失業する可能性がある。最も重要なことは、職業再訓練を充実化させ、失業を低く抑えることだ」との見解を発表。IGメタルも、製造業が国際競争力を失えば解雇が増えるとしてインダストリー4.0を支持し、組合員が新しい技術の下でも働けるように職業訓練の充実を求めてきました。
第4次産業革命をけん引するリーダー人材の育成も始まり、ミュンヘン工科大学などミュンヘンの3大学がデータサイエンティストを養成する修士課程を16年に設置。修士課程を終えた若者は18年から社会に出て働き始めます。
労働社会省は16年11月、議論の集大成である「労働4.0」の白書を発表し、ドイツ国内の議論は山を超えました。あるドイツ人専門家は「今は雇用問題について冷静な議論ができる環境にある」といいます。
2017年11月14日 日本経済新聞「やさしい経済学―AIの雇用への影響を考える」に掲載