IoT, AI等デジタル化の経済学

第180回「AIがマクロ経済に与える影響(6)」

岩本 晃一
リサーチアソシエイト/立命館アジア太平洋大学

10 世界に大きく遅れている日本の情報化

図1は、OECDが作成している世界各国のICT投資の比較である。日本は、インターネット元年である1995年以降、世界の動きに反して投資が減少している。これが日本の情報化の特徴を端的に物語っていると言えよう。

情報化が、企業の競争力を大きく左右すると言われて久しいにもかかわらず、日本企業には、そういった認識が少ないことが分かる。

図1:各国のICT投資額の推移の比較
図1:各国のICT投資額の推移の比較

その背景として指摘されている点は以下の通りである。これらの点は、政府の白書などでかなり昔からずっと指摘されてきた点であり、日本企業は何も変わっていない。

1)日本の情報化投資は、そのほとんど大部分は更新投資と言われている。プログラムが古くなったので、機能はほとんど変わらず、性能を若干上げるためにプログラムを新しく更新するために投資をする。

この背景には、ユーザ企業には、情報の専門家がとても少ないため、情報化に関する理解がほとんどなく、情報を用いた生産性の向上、新規事業、売り上げ増などにほとんど関心がないからとされている(図2)。

ユーザ企業に、情報化の専門家が少ないことによる弊害として指摘されているもう1点としては、情報化投資は、ユーザがITベンダーに発注するが、その発注内容が、単なる更新投資以外には、「守りの投資」と呼ばれる「コストダウン、人員削減」のための投資であるとされている。

ITベンダーが受注する情報化投資が、更新投資や守りの投資であれば、いくらITベンダーに優秀な人材がいても、日本の情報化は発展しない。

ユーザ企業において、情報化投資の重要性が理解されないと、そもそも情報化投資を、企業の経営上の重要な戦略ツールとして使わない。

図2:IT人材が従事する産業の各国比較
図2:IT人材が従事する産業の各国比較

2)日本の経営者は、情報化投資と言えば、どういう訳か、「コスト削減、人員削減」の「守りの投資」だと思い込んでいる人が多い(図3)。図4にそのイメージ図を描いている。中央が標準型である。売り上げからコストを除くと利益になる。

図3:国内企業等がICTにより解決した経営課題の領域
図3:国内企業等がICTにより解決した経営課題の領域
図4:攻めの投資と守りの投資の比較
図4:攻めの投資と守りの投資の比較

「コスト削減、人員削減」の「守りの投資」は右側に描いている。従業員は、経費削減を求められ、いつ自分の首が飛ぶかもしれないという暗い気持ちになるため、経営者が行う情報化投資に非協力的になる。一方、経営者側においても、売り上げが変わらなく、コストが少し減少するだけなので、利益も多少増加するだけとなる。投資に対するリターンが少なく、情報化投資が利益にならないとして情報化投資に否定的になる。それが経営者側も従業員側も、情報化投資に消極的になり、日本企業の情報化投資が進まない要因とされている。

「売り上げ増、新規事業」の「攻めの投資」は左側に書いている。コストなどほとんど意識せずに、売り上げをどーんと伸ばすものであり、利益も大きく伸びる。なによりも従業員が「わくわく感」を感じ、残業削減、有給消化、育休取得、賃金増、ボーナス増などの便益が及び、従業員は喜ぶので、経営者が行う情報化投資に協力的になる。経営者側も、投資に対して大きな利益が生まれるので、情報化投資に積極的になる。

日本は、生成AIを含め、DX導入に関して、世界の周回遅れと言われている。「世界の周回遅れ」と言われたのは数年前であり、今では、米中など先進国の後ろ姿さえ見えないくらい、大きく引き離され、もはや追いつくことはできないと感じている。

かつて日本はものづくりの国として、職人が額に汗してものづくりをする技能は世界一と言われた。だが、目に見えるモノを作るのは得意だったが、インターネット元年1995年以降、DXという見えない技術に対して恐怖を感じている。額に汗してものづくりをする職人から、データを扱う科学的思考への変化に追従できない日本人が多い。

また企業の経営者が世界の動向を吸収しない、または意図的に世界の動向を無視し、現状維持で構わないと思っている。

世界と競争できる技術を持っている日本の企業は、ほんの一握りしかない。中小企業ではDXやAIを導入しているのは全国でも数えるくらいしかない。地方では、いまだに電話とファックスだけで仕事している企業も多い。トップとボトムの格差が余りに大きいのが日本の特徴である。

日本には他の先進国に比べてAIアレルギーの人が多い。古い雇用形態や働き方、人海戦術の仕事の仕方に固執する人が多い。AIの流れに取り残され、世界的な企業の生産性向上競争から落ちこぼれ、日本経済という船が沈む。

2025年2月27日掲載

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