やさしい経済学―AIの雇用への影響を考える

第5回 対応の遅れ、競争力失うリスク

岩本 晃一
上席研究員

波多野 文
リサーチアシスタント

近年の雇用の変化を国別に見ると、米国の変化が最も大きく、技術進歩に合わせた結果だと思われます。米国で経済格差が拡大しているのもうなずけます。

一方、日本の雇用変化は小さいのです。現状維持の傾向が強く、機械で代替できる部分で人間が働いていたりします。技術進歩に雇用状態が追従していないため、生産性や競争力の低下を招いています。雇用を企業内で守ろうとして、人間による非効率な仕事を温存することが、米国企業などとのグローバル競争に負ける要因の1つになっている可能性があります。

人間を機械に置き換えた結果、競争力が高まって売り上げが増え、総雇用者数は増えるかもしれません。逆に、技術進歩にも関わらず、旧態依然とした雇用形態を維持すれば、生産性・競争力が落ち、リストラせざるを得ない状況に至ることもあります。機械に雇用を奪われることを心配している間に、機械化の進んだ外国企業に負けてしまい、大規模リストラを余儀なくされるかもしれません。

ここ数年来、米国を中心に急拡大しているプラットフォームビジネスの経済分析が活発になっています。雇用との関係で重要な点は、プラットフォームの下層で働く人々は雇用が不安定で賃金が低く、やがて人工知能(AI)の普及によって機械に置き換わっていくと考えられていることです。欧米ではタクシーなどの運転手には移民が多く、将来、自動運転車が普及して仕事が失われれば、社会の不安定化につながる可能性があります。AIが雇用にもたらす影響の深刻さは日本の比ではありません。

一方、新技術が導入されると、それまで労働市場に参入していなかった人が新たに参入するようになるケースも考えられます。例えば、パソコンやスマホに慣れた若者は、工場の中で油まみれになって働くのは苦手でも、一日中パソコンに向かってアプリを開発するのは得意かもしれません。このように、失われる雇用ばかりに関心を寄せるのでなく、逆に、これまでの技術の下では働けなかった人々が、新たな技術の下で労働市場に参入できるという側面もあることを見落とすべきではありません。

2017年11月10日 日本経済新聞「やさしい経済学―AIの雇用への影響を考える」に掲載

2017年12月8日掲載

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