やさしい経済学―AIの雇用への影響を考える

第4回 中レベルの雇用が喪失

岩本 晃一
上席研究員

波多野 文
リサーチアシスタント

「雇用の未来」に関する主要論文の数は全世界で100本を超えるでしょう。その中でフレイ&オズボーンは、世界的な研究ブームの先陣の役割は評価できますが、その推計値は最も極端です。オズボーン准教授の来日時に試算の前提を質問しましたが、「技術的な可能性を示しただけ、雇用増の部分は一切考慮していない」との回答でした。

主要論文を分析すると、過去の傾向についてはほぼ共通の認識があります。第1に、スキル度が中レベルの雇用が失われ、低・高レベルの雇用が増加しています。第2に、雇用が失われる境界がより高スキルヘと移動しています。こうした雇用の変化は、先進国での経済格差拡大の一要因とされています。国際通貨基金(IMF)は51力国を対象に1980〜2006年のジニ係数の変化に関して要因分解を行い、「格差への影響が最も強いのは技術革新」と結論付けています。

スキル度が中レベルの職のうち雇用が減っているのは「ルーティン業務の職」です。最近進行している事例としては、(1)コールセンターのオペレーターが人工知能(AI)に(2)証券会社の株式トレーダーがAIに(3)弁護士事務所で過去の判例検索がAIに(4)会計事務所で定型的な経理処理がAIに――などがあります。

ルーティン業務はロジックに基づいているのでプログラム化が容易です。人間が行う場合は高い能力が必要で訓練に時間を要する業務であっても、ルーティン業務であれば機械に代替される可能性が高いのです。一方、中レベルの職の中でも「人と人とのコミュニケーションを要する職」の雇用は増えています。

スキル度が低レベルの雇用は、一部の重労働などは機械で代替されつつあるものの、100%代替されるには至っていないので、仕事量が増えるに従い、雇用も増えています。例えば、ビルやトイレの清掃員は、清掃に使う道具の機械化が進んで重労働から解放されてきましたが、ビルの増加に伴って雇用者も増えています。ただ、スキル度が低い業務は、機械が人間を100%代替することが可能になった時点を境に雇用が減少していくと考えられています。

2017年11月9日 日本経済新聞「やさしい経済学―AIの雇用への影響を考える」に掲載

2017年12月8日掲載

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