人工知能(AI)が普及し、多くの仕事が自動化されることによる雇用への影響については世界中で様々な研究が行われています。
その皮切りになったフレイ&オズボーンは2013年、米国内の職業について機械に代替されにくい性質をどの程度有するかを数値化し、各職業の自動化可能性を予測しました。従来、臨機応変な対応が必要な作業は人間がすると考えられていましたが、技術の進歩により機械でも文脈に応じた非ルーティン作業をこなせるようになっています。そこで機械が非ルーティン作業をこなせる可能性を高く見積もったときに、人間がしている仕事がどの程度機械に代替されうるかを算出しました。そして米国にある職業の約47%は今後10〜20年のうちに機械に代替される可能性が70%以上との推計を発表しました。
その後、人間が担う仕事の質の今後の変化に関する研究成果の発表が相次ぎました。ドイツのアーンツら3氏は労働者の仕事(work)は多くの作業(task)で構成され、職(job)ごとに代替可能性を算出するのではなく、作業単位で機械化可能性を検討すべきだと指摘。作業単位で経済協力開発機構(OECD)加盟国の職業について推計した結果、自動化可能性が70%を超える職は米国でも全体でも9%にすぎず、最も割合が高いドイツ、オーストリアで12%、低い韓国は6%で、大部分の職は自動化可能性が50%、つまり職を構成する作業の半分程度が自動化され、残りの半分は人間がこなすタイプの職であると報告しました。
一方、ドイツのボストン・コンサルティング・グループは、自動化に伴う生産性の向上により、売上高の年平均成長率が1%、自動化普及率50%の段階で、独国内の雇用者数は35万人の純増になるとの推計を発表しています。雇用が増えると予想する研究は他にもあります。増加が予想されている職種はITやデータサイエンスといった分野で、他方、製造、物流、品質管理などの職種では雇用減少が見込まれています。
多くの研究は、自動化によって雇用が極端に減ることはないが、働き方に大きな影響を与えるとの見方でおおむね共通しています。
2017年11月7日 日本経済新聞「やさしい経済学―AIの雇用への影響を考える」に掲載