経済協力開発機構(OECD)は2013年、日本人女性の読解力や数的思考力は高いが、労働力参加率は低く、日本人女性のスキルは十分活用されていない、日本の雇用主は人材の能力を最大限活用しているようには見えないと報告しています。労働力人口の減少が進む中、女性の活躍を促進することは不可避です。では、どのような企業が女性活躍を業績に結び付けているのでしょうか。
近年の研究は、ワークライフバランス(WLB)に配慮した制度の導入だけで企業業績を上げることはできませんが、同時に男女均等施策や人事評価・報酬の仕組みを見直すと、長期的には業績は上がることを明らかにしています。もちろん、育児休業制度、短時間勤務制度などのWLB施策は、女性が就業継続していく上では重要ですが、上位の管理職、意思決定層に登用されるための十分な経験が積めないという弊害も指摘されています。
そこで、WLB施策に一見、逆行するように見えますが、女性に責任ある仕事を任せようと意識した取り組みも試みられています。育児休業を3年まで取得できていた企業が、女性社員の復帰率の低さから、育児休業期間を1年程度に短縮するケース、育児休業から復帰した女性はほぼ全員、短時間勤務制度を利用していた企業が、復帰前セミナーで将来のキャリアを思い描かせることにより、個々人の状況に応じて制度を利用するように促すケース、育児中は免除されていた遅番や土日のシフト勤務に育児中の女性も入れるように変革したケースなどです。
ノルウェーが上場企業に女性取締役比率40%を義務化すると、対象企業の株価は下落し、数年間にわたり企業価値が低下しました。女性活用を通じて業績を向上させたいのであれば、単に女性の社員、管理職、役員の数を増やすのではなく、WLB施策や人事評価・報酬の仕組み、企業文化などを同時に変える必要があります。企業文化を変えるには、国や企業のトップが、持続的に働き方を変えて女性活躍を促進するという「コミットメント」を示し続けることが重要です。
2016年8月29日 日本経済新聞「やさしい経済学―女性の活躍と経済効果」に掲載