日本の企業数は激減
日本の企業数は、1980年代後半をピークに減少を続けている。センサスデータを用いた推計によると、日本全体の企業数は、1990年を100とすると、2005年には82、2015年には74にまで減少した。筆者が、大阪商業大学の村上義昭氏、慶應義塾大学の樋口美雄氏とともに、2040年までの企業数、従業者数をシミュレーションした結果によると、企業数は、今後10年でさらに減少し、1990年を100とすると、2025年(予測)には58と半減する(注1)。1990年から2015年までの25年間で減少した企業数に匹敵する企業が、今後10年間に消滅する。
この企業数減少は、人口動態によって、かなりの部分が説明できる。図1は、2011年経済センサス、東京商工リサーチ(TSR)データから描いた人口と社長の年齢分布である。これによると、人口も、社長も、団塊の世代(2011年時点で62-64歳)にピークがある。この世代が、2015年には66-68歳、2025年には76-78歳となり、引退の時期を迎える。そして、この古い世代が引退する一方、起業あるいは事業承継による若い世代の社長への参入はかなり少ない。図2は、社長の年齢分布の推移である 。2006年には59歳であった社長年齢のピークが、2015年には66-67歳に上がっている。9年間で、8歳社長年齢のピークが上がっている。
企業数減少は地域によって大きな差がある
この企業数の減少は、全国一律ではなく、地域毎にかなりの濃淡がある。図3は、都道府県別企業数の推移、左が2015年、右が2025年(推計値)である。1990年に比べて、2015年の企業数の減少が比較的小さいのは、神奈川県(1990年を100とすると83)、滋賀県(同83)、埼玉県(同83)、沖縄県(同82)、千葉県(同82)である。一方、企業数減少が著しいのは、山口県(同66)、京都府(同66)、高知県(同66)、秋田県(同67)で、1990年に比べると、これらの府県では企業数は約2/3にまで減少している。われわれのシミュレーションによると、2025年には、最も企業数が減る富山県(1990年を100とすると43)、山形県(同43)、高知県(同43)をはじめ14県で、1990年に比べて企業数が半分以下になる。その反対に、企業数の減少が比較的少ないのは、埼玉県(同80)、神奈川県(同79)、沖縄県(同77)、滋賀県(同72)である。この企業数の減少が少ない県は、生産年齢人口の減少幅が比較的小さい(注2)、創業者比率が比較的高い(注3)という共通点を持っている。生産年齢人口は、労働供給の源であると同時に、消費者として製品・サービスの需要を生み出す源泉でもあることを考えると、この結果は驚くに当たらない。
従業者数は足下までは増加しているが今後減少
企業数は1990年以降減少の一途を辿っているが、従業者数(企業による労働需要量)は、全国平均では、1990年を100とすると、2015年は106と、1990年を上回っている。企業数が減少しているにもかかわらず、従業者数が増加しているのは、中小・零細企業が退出し、比較的大きな企業が残ったために、1社当たりの従業者規模が大きくなったためである。足下までは、従業者数は増加しているが、企業数のシミュレーション結果を基に推計した2025年(予測)の全国の従業者数は、1990年を100とした時に2025年の従業者数は93となる(注4)。
この従業者数の減少は、企業数ほどには地域毎の差は大きくないが、それでもばらつきは大きい。図4は、都道府県別従業者数、左が2015年、右が2025年(推計値)である。1990年に比べて、2015年の従業者数が増加したのは、沖縄県(1990年を100とすると134)、滋賀県(同121)、千葉県(同120)等、29都府県である(図4参照)。九州の全県で、従業者数が増加しているのが目を引く。一方で、2015年の従業者数が1990年に比べて減少しているのは、秋田県(同87)、山口県(同93)、山形県(同93)、福島県(同93)等である。われわれのシミュレーションによると、2025年には、最も従業者数が減るのは、秋田県(同69)、それに、山形県(同73)、高知県(同73)が続く。一方、沖縄県(同120)、埼玉県(同118)、滋賀県(同112)、千葉県(同111)、神奈川県(同110)等の都県は、2025年の従業者数は1990年に比べて増加を維持する。
社長の高齢化が進んでいる地域ほど生産性が低い
企業数が減少したとしても、残った企業が付加価値を生み出せば良いのではないかという考え方もあろう。図5は、本社が北海道にある企業を基準にしたときの本社所在地毎の相対的な生産性(1人当たり売上高)である(注5)。北海道を100とすると、東京都の生産性は124、大阪府は121、兵庫県は111、愛知県が110である。一方、鳥取県は55、山形県が59、徳島県は62となる。Kodama and Li (2018)によると、生産性は、社長が50歳前後で最も高く、生産性の伸び率は30歳代以降ずっと下がっていく。つまり、社長の高齢化が進んでいる地域ほど生産性が低くなる。社長の新陳代謝を高める取組が生産性向上に役立つ。
事業承継支援は早期に集中して行う必要性
以上から導かれる示唆は以下の通りである。
まず、企業数や企業の需要する従業者数は、かなりの部分、人口動態によって決まる。人口は減少するが、企業数は増加するという地域はない。ニワトリとタマゴの関係ではあるが、仕事のある地域に人は住み、人が住む場所で仕事が生まれる。人口政策が最大の産業政策、地域政策である。
それを前提にして、それでも企業数や生産性の低下を少しでも食い止めるためには何をすべきか?シミュレーション結果は、企業数低下に対して、創業支援と事業承継支援(廃業抑制)は、いずれも有効であることを示す(詳細は、村上・児玉・樋口(2017)をご参照いただきたい)。日本は諸外国に比べて創業希望者が起業に至る割合が高いことを考えると、創業希望者を増やす環境を整備することが創業を活発にするためには重要である。また、団塊の世代の社長が70歳を迎え始める2017年以降、廃業が急増することが懸念されている。事業承継支援については、早い時期に集中して行う必要がある。
さらには、大阪府のように雇用は減少するものの生産性は高い地域と、沖縄県、埼玉県のように、生産性はそれほど高くないが雇用は増加する地域では、必要な政策も異なる。創業支援、事業承継支援、社長の若返りなど、地域毎にふさわしい支援策を組み合わせることによって地域の活力を維持していくことが望まれる。
(注)シミュレーション結果は、推計方法、データ、仮定、基準年によって、大きく変わり得ることにご留意いただきたい。
(参考資料)
村上義昭・児玉直美・樋口美雄, 2017, 「地域別企業数の将来推計」, フィナンシャル・レビュー:特集「人口減少と地方経済」, 平成29年第3号(通巻第131号)2017年6月, pp.71-96.
Kodama, Naomi and Huiyu Li, 2018. "Manager characteristics and firm performance," RIETI Discussion Paper Series 18-E-060.