女性の労働参加はマクロ経済にどのような影響を与えるのでしょうか。日本の労働力人口は1998年の6793万人をピークに減少し始めています(労働力調査)。この労働力人口の減少を補うために、就業していない女性の労働力化が期待されています。
男女共同参画会議は2012年、働く意欲がありながら就業していない342万人の女性が働くことによって、雇用者報酬総額が7兆円程度(国内総生産=GDP=の約1.5%)増える可能性を指摘しました。この試算は、男女賃金格差が続く前提のため、控えめな数字になっています。
ゴールドマン・サックスは07年のリポートで、女性の労働参加の障壁を減らすことは日本のGDPを16%上げる潜在力があると指摘しています。この試算は女性の就業率が男性と同水準まで上がり、労働力率の上昇と同じ比率でGDPが増加すると仮定しており、相当高い数字になりました。
スタインバーグと中根誠人の12年の報告は、日本の女性の労働参加率をG7(日・伊を除く)レベルに上げれば、1人当たりGDPは現状維持ケースより4%増え、潜在成長率は0.2%上昇。労働参加率を北欧レベルまで上げると、潜在成長率は0.4%上昇すると試算しています。
これらの研究は、女性の労働力率上昇に伴い、潜在GDPが増えるという一方向のメカニズムを考えていますが、労働政策研究・研修機構の中野諭副主任研究員は、労働投入増加に伴う賃金・所得の変化と消費への影響も考慮してシミュレーションを実施。その結果、30年の女性の労働力率が現状ケースより6%高くなると仮定したケースでは実質成長率は現状ケースより0.05%高いこと、出生率や保育所在籍児童比率などによって女性の労働力率が決まると想定したケースでは、30年の女性の労働力率は現状ケースより2.6%高く、実質成長率は0.003%高いと報告しています(現状ケースが想定する実質成長率は0.84%)。
このように女性の労働力率上昇がGDPに与える影響は、モデルや仮定によって異なっても、正の効果があることはほぼ合意されていると言えるでしょう。
2016年8月25日 日本経済新聞「やさしい経済学―女性の活躍と経済効果」に掲載