電力自由化が既存の電気事業者にとって経営革新の大きなチャンスになります。
「民営公益事業」方式を採用してきたわが国の電力業において、電気事業者が民間活力を発揮することは決定的な重要性をもちます。ところが1970年代の石油危機をきっかけに、電力会社は電気の安定供給のみに経営努力を集中するようになり、電気の低廉な供給にはあまり関心を示さなくなりました。コストに一定比率の利益が確実に上乗せされる総括原価方式にあぐらをかいて、民間活力を後退させたのです。
2011年の東京電力福島第1原子力発電所事故は、電気事業における民間活力が十分に機能していないことを白日のもとにさらしました。事故の反省から実施されることになった電力システム改革を通じて、民間活力を復活させなければならないのです。
小売り全面自由化と発送電分離を通じて競争が本格化することは、電力の需要家にとって有益であるばかりではありません。長い目で見れば、電力会社にとっても競争はプラスに作用します。新規参入者や地域を超えた競争に直面し電力各社が切磋琢磨すれば、民間活力は再び向上するでしょう。
しかも、今回の電力システム改革はガスシステム改革と連動しているため、エネルギーを巡る競争の本格化はガス市場でも生じます。これまで大口需要家に限られていた電力会社のガス販売やガス会社の電力販売は、小口需要家にまで対象を広げ、さらに勢いを増すことでしょう。
2014年10月、東京ガスの広瀬道明社長は「20年までに首都圏の電力需要の1割を獲得する」と表明しました。石油・通信などの異業種企業も競争に加わります。エネルギー産業において電力、ガス、石油という業界の壁は打破されてゆきます。電力システム改革は総合エネルギー企業を目指すし烈なレースの開始を告げる号砲となるのです。
2015年9月3日 日本経済新聞「やさしい経済学―公共政策を考える 電力自由化の影響」に掲載