やさしい経済学―公共政策を考える 電力自由化の影響

第1回 本格的な改革スタート

橘川 武郎
ファカルティフェロー

今年4月から、本格的な電力システム改革がいよいよ始まりました。

今回の改革は「電力自由化」という表現がしばしば使われますが、実は自由化はすでに20年前から始まっていました。1995年から2008年にかけて4次にわたり実施された部分的な自由化で、新規参入や競争が可能な分野が徐々に拡大していたのです。

具体的には00年に契約電力2000キロワット以上、04年に500キロワット以上、05年に50キロワット以上の需要家が自由化対象に組み入れられました。これにより電気料金は着実に低下し、95年から05年度の間に約18%下落したのです。

一方、自由化対象を小口の家庭用などに広げる電力小売りの「全面自由化」は08年にいったん見送られることが決まりました。また自由化分野が需要全体の約6割を占めるにもかかわらず、肝心の電気事業者間の地域を越えた競争は、東日本大震災以前は1件しか起こりませんでした。

これらを踏まえれば、日本における電力自由化は道半ばで頓挫したといわざるをえない状況でした。その状況を大きく変えたのは、11年3月に発生した東京電力福島第1原子力発電所の事故でした。

電気事業が国家管理下におかれたのは第2次世界大戦前後の約12年間だけであり、基本的には民営形態で営まれてきた点に日本の特徴があります。民有民営の電力会社が企業努力を重ね、「安い電気を安全かつ安定的に供給する」という公益的課題を達成する方式を採用してきたわけですが、福島原発の事故は肝心の電気事業における民間活力が十分に機能していないことを国民に印象づけました。

その結果、電気事業の改革を求める声が高まり、懸案の小売全面自由化を含む抜本的な電力システム改革が実施されることになったのです。

2015年8月24日 日本経済新聞「やさしい経済学―公共政策を考える 電力自由化の影響」に掲載

2015年9月17日掲載

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