やさしい経済学―公共政策を考える 電力自由化の影響

第3回 広域機関の動向に期待

橘川 武郎
ファカルティフェロー

電力システム改革の第1段階として4月、電力広域的運営推進機関(広域機関)が発足しました。

同機関の主要な業務は(1)需給計画・系統計画を取りまとめ、周波数変換設備、地域間連系線等のインフラの増強や区域を超えた全国規模での系統運用等を図る(2)平常時に各区域の送配電事業者による需給バランス・周波数調整に関する広域的な運用の調整を行う(3)災害等による需給逼迫時に発電量の増加や電力融通を指示して需給調整を行う(4)中立的に新規電源の接続受け付けや系統情報の公開に関する業務を行う、などです。

この機関が必要となったのは、東日本大震災時に既存の電力会社中心の広域系統運用システムが十分に機能せず、計画停電などを引き起こしたからです。また、再生可能エネルギーの増大に伴う電力系統の広域的調整へのニーズの高まりや、電力自由化で活発となる競争の公正化を図るための系統運用の中立性の確保も設立の要因となりました。

昨年、北海道、東北、四国、九州、沖縄の電力各社が、大規模太陽光発電所の急増による系統運用の混乱を回避するため、再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)に基づく接続申し込みに対する回答を保留し、社会問題となりました。最初に表面化した地域は九州でしたが、もし九州と本州とを結ぶ連系送電線が拡充され、九州の電気を中国・関西地方に送ることができるようになれば、この問題はある程度解消します。

このような地域間連系の拡充にも、広域機関はリーダーシップを発揮することができます。同機関への期待は系統運用の中立性の確保という理由だけでなく、再生可能エネルギー電源の拡充という観点からも高まっているのです。

広域機関が力を発揮するためには各エリアの送配電会社とのあいだで、役割や責任をどのように分担するかなど、解決すべき課題も残っています。今後の広域機関の動向から目が離せません。

2015年8月26日 日本経済新聞「やさしい経済学―公共政策を考える 電力自由化の影響」に掲載

2015年9月17日掲載

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