やさしい経済学―公共政策を考える 電力自由化の影響
第4回 業種や地域超え競争
橘川 武郎
ファカルティフェロー
2016年4月に電力システム改革の第2段階として電力小売り全面自由化が実施されます。
1951年の電気事業再編成以来、日本の電力業は9電力体制(88年の沖縄電力の民営化以降は10電力体制)のもとで営まれてきました。この体制は、(1)民有民営(2)発送配電一貫経営(3)地域別分割(4)独占、という4つの特徴をもちますが、来年の電力小売り全面自由化によって(3)と(4)は終結することになります。
地域別分割と市場独占を完全に廃止する全面自由化後の電力市場では、これまで大口の自由化部門で事業を展開してきた特定規模電気事業者(PPS)と呼ばれる新電力会社が、新たに自由化される小口の家庭用などの分野にも進出します。異業種からの参入も相次ぐでしょう。
それ以上に注目されるのが既存電力会社による他地域への進出です。電力需要が集中する首都圏エリアでは東京電力の弱体化もあり、中部、関西、九州などの電力会社が進出する準備を進めています。
これに対抗して東京電力は東海・近畿圏へ逆進出を図る動きを見せています。これらの既存電力会社による他地域への進出は、すでに小口販売ノウハウを身につけている点から全面自由化後の競争の本命となる可能性があります。
さらに忘れてはならないのは、電力小売りの全面自由化を受けて17年にはガスの小売り全面自由化が実施されることです。これまで大口市場に限定した形で行われてきた電力会社とガス会社との競争が小口まで含めて全面化することになります。このように、電力小売り全面自由化の影響はきわめて大きいのです。
時期 | 自由化された分野 | 自由化比率 (電力量、%) |
---|---|---|
2000年3月 | 大規模工場、デパート、オフィスビルなど | 26 |
2004年4月 | 中規模工場、スーパーなど | 40 |
2005年4月 | 小規模工場 | 62 |
2016年4月 | 家庭など小口部門 | 100 |
2015年8月27日 日本経済新聞「やさしい経済学―公共政策を考える 電力自由化の影響」に掲載
2015年9月17日掲載
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