やさしい経済学―公共政策を考える 電力自由化の影響

第8回 海外も成否分かれる

電力小売り全面自由化や発送電分離に関しては海外に少なくない先行事例があります。それらが伝える教訓は、どのようなものでしょうか。

一言で表現すれば、成功事例もあれば失敗事例もあり、一概には言えないということになります。

そもそも電力小売り全面自由化を実施しているところとしていないところが併存します。例えば米国は2014年時点で全50州のうち、全面自由化が13州とコロンビア特別区、部分自由化が6州、自由化中断・廃止が5州、非自由化が26州と分かれるのです。

一方、欧州では03年の欧州連合(EU)電力指令の改正により、法的分離方式による発送電分離と07年7月までの電力小売り全面自由化が義務づけられました。ただし、家庭用小売市場の競争活発化は大きく進展している英国と、それほど進展していないドイツやフランスとに分かれます。

注目したいのは、電力システム改革が成果をあげている国・地域では長い歴史の積み重ねがある点です。英国では1926年の電力供給法によって発送電と配電とを分離する、いわゆる「グリッド・システム」が導入されました。米国で成功事例といわれる北東部のペンシルベニア州とニュージャージー州では1927年に電力会社3社が世界初の広域電力プール(発生電力の卸電力市場への集約)を形成しました。それ以来の様々な経験や試行錯誤を通じて英国や米国北東部では電力システムが錬磨され、今日の成果へと結びつけたのです。

これとは対照的に1998年に電力小売り全面自由化を実施した米国のカリフォルニア州では2000年から01年にかけて停電が頻発し、電気料金が急騰。自由化が頓挫することになりました。カリフォルニア州の電力危機の原因は、準備不足による制度設計のミスにあったといわれています。これから小売り全面自由化と発送電分離へ向かう日本においても、拙速を避け行き届いた制度設計を行うことが重要でしょう。

2015年9月2日 日本経済新聞「やさしい経済学―公共政策を考える 電力自由化の影響」に掲載

2015年9月17日掲載

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