やさしい経済学―公共政策を考える 電力自由化の影響

第7回 発電投資の活性化必要

橘川 武郎
ファカルティフェロー

電力システム改革によって必ずしも電力料金が低下するわけではないのは、小売り全面自由化と発送電分離によって発電設備を新増設する投資が抑制される恐れがあるからです。投資抑制が起これば電力需給はひっ迫し、料金引き上げ圧力が生じます。

2008年に電力小売りの全面自由化が見送られた際も、発電投資への影響が最大の理由とされました。当時は地球温暖化対策の観点から原子力発電所の増強に期待する風潮が強く、原発新増設の足かせとみなされたのです。

11年の東京電力福島第1原子力発電所事故を契機に原発を巡る状況は一変しましたが、電力自由化が発電投資を抑制する恐れがあるという状況には変化がありません。したがって電力システム改革を進めるには電源をいかに確保するかが重要になるのですが、政府の施策は不十分です。

今年7月、2030年度の電力需給見通しを新に策定した際に政府は、原発のリプレース(現存炉の建て替え)を想定から除外し、既存炉の運転期間延長だけに注力する方針を打ち出しました。

また再生可能エネルギーの比率は国民が期待した水準よりも低い22~24%という見通しを示し、地熱、太陽光、風力発電の新増設に水をかけました。さらに火力発電の中で最大のウエートを占める液化天然ガス(LNG)火力の新増設も、原発比率を押し下げることを危惧して消極的な見通しを設定したのです。

発電投資を活性化する施策が講じられなければ、電力システム改革は十分な成果をあげません。原発のリプレースも真剣に検討すべきです。原発を使う場合に厳守しなければならない「危険性の最小化」という原則からみても必須の条件だといえます。

30年度における再生可能エネルギーの比率は30%程度まで拡大すべきです。さらに天然ガスの低廉な調達に努めてLNG火力開発を促進すべきです。電力需給見通しは早期に見直す必要があるといわざるをえません。

2015年9月1日 日本経済新聞「やさしい経済学―公共政策を考える 電力自由化の影響」に掲載

2015年9月17日掲載

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