やさしい経済学―公共政策を考える 電力自由化の影響

第6回 料金下がらぬ可能性も

橘川 武郎
ファカルティフェロー

2016年の電力・ガス小売り全面自由化および20年の発送電分離で、小口契約者を含む電力需要家が自由に電力会社を選択できるようになることは間違いありません。この点は、電力システム改革の大きな成果だと評価できます。

一方で、小売り全面自由化と発送電分離によって電力料金が低下するかというと、必ずしもそうなるとは限りません。自由化とは市場に任せることであり、市場では需給関係によって価格が決まるからです。現時点で電力はどちらかといえば供給不足の状態にあり、このままだと全面自由化後、電力価格が上昇する恐れは否定できません。

たしかに全面自由化直後には競争の激化に伴い、電力料金は低落するでしょう。しかし、中長期的には料金の緩やかな上昇が生じる可能性は高いのです。電力自由化で先行した諸外国でも、同様の現象がしばしば観察されました。

今年7月に経済産業省は、2030年度のエネルギー需給の新たな見通しを策定し、そのなかで「電力コストを現状よりも引き下げることを目指す」方針を打ち出しました。

その際、2つのグラフを示し、電力コスト引き下げを実現するためには発電用の燃料費の削減と、固定価格買い取り制度(FIT)による再生可能エネルギー電源関連の買い取り費用の抑制、の2点が焦点になると説明したのです。

つまり経産省は30年に向けた電力コストの引き下げに関して、電力システム改革による料金引き下げ効果を織り込まなかったのです。電力自由化が必ずしも料金低下をもたらすとは言い切れないのが実情なのです。

図:経済産業省の示したグラフ
図:経済産業省の示したグラフ
(出所)経済産業省

2015年8月31日 日本経済新聞「やさしい経済学―公共政策を考える 電力自由化の影響」に掲載

2015年9月17日掲載

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