やさしい経済学―公共政策を考える 電力自由化の影響

第5回 発送電分離に光と影

橘川 武郎
ファカルティフェロー

2020年に電力システム改革の第3段階として、電力会社の送配電部門を別会社化する「発送電分離」が実施されます。これにより戦後日本で続いてきた発送配電の一貫経営が廃止され、10電力体制は事実上の終幕を迎えます。この発送電分離にはメリットとデメリットがあります。

第1のメリットは電力業界の競争が活発化することです。電力供給の中枢を担う送配電部門を大手電力から切り離し中立性を高めれば、新規参入した事業者が送電線や電柱を使いやすくなります。

00年以来の部分自由化で、大口需要部門では地域を超えた電力会社間の競争が可能になりました。にもかかわらず東日本大震災以前は、九州電力が中国電力管内のイオン宇品店(広島市)に供給した1例しかありませんでした。このような状況を打破するうえでも、発送電分離は大きなインパクトを与えるでしょう。

第2のメリットは再生可能エネルギーの拡充を促進することです。送電部門の中立性を徹底する発送電分離が再生可能エネルギーの拡充に資することは間違いありません。

一方で、発送電分離には、デメリットもあります。

第1のデメリットは、日本の電力業がもつ高い系統運用能力に傷をつける恐れがあることです。電気はためることができないため停電が起きやすいという取り扱いの難しさが伴います。わが国の電気事業の最も優れた要素は、停電を回避する系統運用能力の高さです。それは、発送配電一貫の垂直統合体制の下で培われてきました。発送電分離でこれに傷をつけることにならないかと心配されるのです。

第2のデメリットは、発電・送電・配電設備間のバランスのとれた投資を行いにくくなることです。小売り全面自由化と発送電分離が実施されたのちに、初期投資が膨大で回収に時間がかかる発電設備の建設が適正に行われるかについては懸念を禁じえません。5年後に迫った発送電分離は、その光と影に両面に注目する必要があります。

2015年8月28日 日本経済新聞「やさしい経済学―公共政策を考える 電力自由化の影響」に掲載

2015年9月17日掲載

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