やさしい経済学―雇用を考える 若者と高齢者

第10回 ともに雇用増も可能

川口 大司
ファカルティフェロー

高齢者の就業率が上がると、若年の失業が増える。この議論は自明のようにみえます。しかし、この議論の前提は世の中には決まった数の仕事しかなく、その仕事を労働者が分け合っているという見方で、いつも正しいわけではありません。

高齢者と若者が同質な労働力であれば、高齢者を雇うと若年者が追い出されてしまうこともあり得ます。しかし、高齢者と若者が異質な労働力であれば、高齢者が働き続けることで若者の技能指導をする人材が確保でき、若年の雇用が伸びる可能性もあります。

このように高齢者も若者も、働く機会が増えると、生産量が増えて供給過剰になるのではないかと心配にもなります。しかし、働くことで所得が増えた人々は、消費を増やせるので、増えた分の生産量は高齢者と若者の双方の消費を伸ばすことに使うことができます。その結果、高齢者も若者も、より高い生活水準を達成することができるようになるのです。

もう消費を増やす必要がないということであれば、無理に消費を増やす必要はなくて、高齢者も若者も労働時間を減らし、所得を減らせばいいのです。この場合、労働時間が減って自分の好きにできる時聞が増えて豊かな生活ができるようになるのです。

働くことの障害を取り除いて、高齢者も若者も、皆が効率よく働ける社会を目指せば、長期的には市場の調整機能が上手に働いて、私たちの生活は豊かなものになります。ただ、この調整機能がうまく働くようにするためには、法律に基づく政策の後押しが必要な場面もあります。

個々の政策を評価するためには、その政策が、調整機能の流れを邪魔していないか、実現できないユートピアを夢想したものになっていないか、という理論的な視点が必要になります。さらに、データを用いて、その政策が目標を達成しているかを実証的に評価する2つ目の視点も重要となってきます。

2013年10月30日 日本経済新聞「やさしい経済学―雇用を考える 若者と高齢者」に掲載

2013年11月12日掲載

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