やさしい経済学―雇用を考える 若者と高齢者

第9回 65歳まで広がる再雇用

川口 大司
ファカルティフェロー

人口が高齢化する中で、日本の年金会計は危機的な状況に陥っています。そのため、年金給付開始年齢の引き上げが不可避になっています。

年金給付の開始年齢を引き上げると、生活水準を維持しようとする多くの高齢者は引退を先延ばしにしようとします。しかし、その前に立ちはだかる壁が、定年制度です。

定年を経て、他の企業に再就職をしようとしても、高齢者を積極的に雇う企業は限られており、それまでに蓄積した技能を生かせる企業に再就職できる高齢者は、ごく一部にとどまるでしょう。実際に、清家篤・慶応義塾長と慶応義塾大学の山田篤裕教授による研究は定年を経験した高齢者の就業確率が低いことを明らかにしています。

日本における定年年齢は、10年ほど前までは60歳が一般的でした。年金支給の開始年齢も、おおむね60歳で定年とともに年金生活に移行できるようになっていました。しかし、年金支給の開始年齢を65歳に引き上げる制度改革が進むなか、企業に対し、65歳までの雇用を確保することへの要請が強まってきました。

それに応える形で、政府は高齢者雇用安定法を改正し、企業に65歳までの雇用確保を求めるようになりました。企業に与えられた選択肢は、定年廃止、定年延長、再雇用の3つですが、再雇用を選択する企業が大半です。定年でいったん既存の雇用契約を切って、大幅に待遇を切り下げて新たな契約を結べるのが最大の理由です。

横浜国立大学の近藤絢子准教授の研究によれば、高齢者雇用安定法の施行によって60歳代前半の就業率は上昇してきました。高齢者の雇用継続の義務化で、若者の雇用が奪われるとの懸念があり、一部の経済学者は高齢者雇用安定法を批判します。

これは高齢者の雇用を維持するため、若者の採用を抑えて総人件費の膨張を防ごうと行動する可能性があるためです。この懸念が現実のものであるのか、現時点では明らかになっていません。今後の研究成果が待たれるところです。

2013年10月29日 日本経済新聞「やさしい経済学―雇用を考える 若者と高齢者」に掲載

2013年11月11日掲載

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