やさしい経済学―雇用を考える 若者と高齢者
第8回 高齢者に定年制の壁
川口 大司
ファカルティフェロー
日本の人口高齢化のペースは世界一といわれています。2011年時点で人口に占める65歳以上の割合は23.3%であり、35年には33.4%を占めるようになると予想されています(国立社会保障・人口問題研究所)。
そんな中で、少子化の影響で現役世代の人口が減少し、労働力が不足するようになるので、高齢者の就業促進が重要だといわれています。当たり前にみえる、この議論は経済学的に考えると不思議です。なぜならば、経済全体で労働力が不足するようになれば、賃金が上がり、高齢者も引退時期を先延ばしにするはずだからです。なぜ、政府があえて高齢者の雇用促進政策を推進する必要があるのでしょうか。
もしも、すべての高齢者が自分自身で貯蓄をし、十分な貯蓄ができたと思えた時点で自由に引退をすれば、あえて政府が高齢者雇用を促進する必要はないかもしれません。
しかし、現実問題として、日本には賦課方式という現役世代の年金保険料を使って、年金受給者に給付する制度があります。年金をもらえるようになると、生活の心配がなくなった高齢者は引退する傾向があります。そのため、年金制度があるときには、その支給開始年齢の調整を通じて、政府が引退年齢に大きな影響を与えるのです。
人口が高齢化して年金保険料を支払う現役世代が減少する一方、年金を受給する引退層が増えているのが今の日本の状況です。だからこそ、年金支給の開始年齢を引き上げて支払い世代と受け取り世代の比率を調整する政策が必要になるのです。その時、年金の支給開始年齢を引き上げるだけで高齢者の雇用が促進されるかというとそうではありません。高齢者が働き続けようとするときに直面する壁を考える必要があるのです。
その壁とは定年制度です。大企業を中心に日本企業は、中高年に生産性以上の賞金を支払う賃金後払いで、労働者のやる気を引き出しているといわれます。この過払い期間の終了を、明確に定めているのが定年年齢です。
2013年10月28日 日本経済新聞「やさしい経済学―雇用を考える 若者と高齢者」に掲載
2013年11月11日掲載
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