やさしい経済学―雇用を考える 若者と高齢者

第7回 安い年金、高齢就業促す

川口 大司
ファカルティフェロー

人は年齢を重ねるにつれて体力が衰え、働くことが難しくなってきます。そのため、十分な貯蓄があったり、年金を受給できるようになったりして経済的な準備が整ってくると、人々は仕事から引退します。その結果、どこの国でも高齢者の就業率は徐々に落ちていく傾向があります。

そのなかにあって、日本は高齢者の就業率が国際的にみて高いことが知られています。経済協力開発機構(OECD)によると、2011年時点での65~69歳の男性就業率は、各国で異なり、日本の46.2%は、フランスの6.2%やドイツの12.9%、英国の23.3%、米国の34.8%を大きく上回っています。

日本の高齢者の就業率が高い理由として、年金の支払水準が他の先進国に比べて低水準にとどまっていることが挙げられます。経済的な理由から働き続けなければならない高齢者が多いのです。

年金受給者の年金額が、現役世代の平均的な所得の何割かを示す指標に「年金代替率」があります。11年のOECDの計算によると、日本の年金代替率は41.4%にとどまっています(年金所得への課税や保険料支払いを考慮済み)。

図に示すように、年金代替率が高いと、65~69歳男性就業率は低くなる傾向があります。日本の場合、年金代替率の低さが、高い就業率につながっているといえそうです。実際に内閣府の「2006年国民生活白書」によると、65%は経済上の理由を就業理由としてあげています。

仮に賃金が同じならば、経済的に余裕がある人が働かなくなる傾向は、性別や年齢階層を問わずに観察されます。高齢者についても、そのパターンが当てはまるというわけです。

図:年金代替率が低いと就業率は高まる(2011年時点)
図:年金代替率が低いと就業率は高まる
(出所)OECD

2013年10月25日 日本経済新聞「やさしい経済学―雇用を考える 若者と高齢者」に掲載

2013年11月11日掲載

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