やさしい経済学―雇用を考える 若者と高齢者

第1回 経済変化、若者を直撃

川口 大司
ファカルティフェロー

1990年代後半の就職氷河期以降、若者の失業率の高さが注目を集めるようになりました。80年代には4%前後という低水準で推移していた20~24歳の失業率ですが、2000年に入ると10%前後で推移するようになります。

90年代前半にバブルがはじけ、日本経済が「失われた20年」ともいわれる長期的な停滞に入ったことが、若年失業率の上昇の最大の原因だと考えられます。若者は労働市場の入り口に位置しています。そのため、景気が後退して雇用への入り口が狭くなると真っ先に若者が影響を受けることになるのです。

この景気循環的な要因のほかに、経済構造の変化も若年者雇用にとって向かい風となっているといえます。例えば、国内の産業空洞化です。中国をはじめとするアジアの新興国の台頭で、多くの労働者を吸収していた日本国内の工場は、相次ぎ海外に移転しています。政府の財政悪化に伴う公共事業の大幅な縮減で、建設業での雇用も減りました。IT(情報技術)の進歩によって、企業は単純な事務作業の従事者を必要としなくなっています。その結果、比較的技能の低い労働者への需要が構造的に減ってしまいました。

若年失業率の上昇の背景には、このような日本経済を取り巻く環境の構造的変化があります。

ただ、日本の水準は、世界の主要先進国に比べると引き続き低いものにとどまっていることに注意が必要です。12年の20~24歳男性失業率は日本で8.8%でしたが、米国の14.3%、英国の20.0%、イタリアの29.9%、スペインの50.5%と比べると、まだまだ低いです。

事態を冷静にとらえて客観的な分析をしないと、「若者かわいそうだ」論と「若者かわいそうでない」論といった経済分析とは無縁の論争が続くことになります。

2013年10月17日 日本経済新聞「やさしい経済学―雇用を考える 若者と高齢者」に掲載

2013年11月11日掲載

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