やさしい経済学-ゲーム理論で解く 通商政策と戦略

第3回 補助金の影響

石川 城太
ファカルティフェロー

前回の新型旅客機の開発競争を次のような仮想数値列を用いて分析してみよう。

話を単純化して、費用さえかければ新型旅客機を必ず開発できるとし、開発費用はエアバスもボーイングも同じ60億ドル、開発しないと費用・収入は発生しないとする。もしどちらか1社だけが開発すれば、その企業が市場を独占することで100億ドルの収入をあげて40億ドルの利益を得られるが、もし両社が開発すると、販売競争のために1社当たりの収入は40億ドルになって、開発費をカバーできないとする。

航空機2社の戦略と利益この状況を表のケース1に示した。数値は左がボーイングの、右はエアバスの利益である。この場合は、もしライバルが開発しないならば、自分は開発をした方がよいが、もしライバルが開発すれば、自分は開発をしない方がよいということになる。

ここで、エアバスの新型機開発に対し欧州連合(EU)が30億ドルの補助金を与えるとしてみよう。すると、ケース2のように変わるため、エアバスは、ボーイングが開発しようとしまいと開発する方がよい。そこまで読み込めばボーイングは開発しないという戦略をとる。したがって、最終的には、エアバスのみが開発を行い70億ドルの利益を得る。このように、政府の補助金は両社の駆け引き(戦略的環境)に影響を与え、自国(地域)の企業に有利なように競争環境を大きく変えてしまう。

ここで、もし米政府も対抗して30億ドルの補助金を出すとどうなるだろうか。この場合には、両企業が開発しても、ともに10億ドルの利益を上げることになるので、ともに開発に乗り出すことになる。しかし、各企業の利益は補助金額を下回っている。両企業間で販売競争がおこるために、旅客機の買い手が漁夫の利を得るのである。

したがって、もし旅客機が欧米以外で売られるのなら、補助金のもとで両企業が開発することは、補助金の一部が実質的には欧米以外の買い手に漏れ出してしまうため、EU・米国双方にとって好ましくない結果をもたらす。

2005年7月14日 日本経済新聞「やさしい経済学-ゲーム理論で解く 通商政策と戦略」に掲載

2005年8月16日掲載

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