政治、経済、外交、安全保障など様々な分野で異なる政策や主張がある。間接代表制では、政治家や政党の主張がすべての政策や争点で一票を投じる投票者の意思と一致することはほぼありえない。我々は大きな争点や多くの政策で一致できそうな候補者や党に投票する。
この結果、特定の政策で多数の投票者と当選者の意思が異なることが往々にして起こる。環太平洋経済連携協定(TPP)参加が大きな争点となった選挙では、自民党の候補者に投票した人のほとんどがTPPに賛成だったのに、自民党の当選者は農業団体の意向をていしてTPP反対の活動を行った。特定の争点で国民の意思をはっきりさせるには、英国が欧州連合(EU)離脱の際に行ったように国民投票をするしかない。
今回の衆院選は高市早苗首相の個人的な人気が自民党大勝につながったので、政策が争点になった気すらない。消費税の減税というポピュリスト的な政策を与野党こぞって主張した。高市氏が争点とした「責任ある積極財政」の意味が私にはいまだに分からない。一般会計の歳出は令和になって100兆円を超えているのに「長年続いた過度な緊縮財政」と言うし、さらに財政支出を増やすのかと言うと財政規律が重要だという。
裏金問題も争点にならなかったおコメ券も、選挙で勝ったのでみそぎや信任を得たことになっている。しかし、物価問題が最大の関心と言われたのに、その原因をつくっているコメの値段を下げると主張した政党はなかった。消費税は供給者も負担しているので8%分食料品価格が下がるのではない。減反強化でコメ価格を下げない自民党に対し、中道改革連合がコメを争点にしていれば選挙結果は変わったかもしれない。負けるべくして負けたように思う。
2026年3月4日 日本経済新聞(夕刊)「十字路」に掲載