米価を下げようとした前政権と違い、新農水大臣は「物の値段は市場で決まるもので行政は価格に関与しない」という元の農水省の立場を繰り返している。
しかし、農家に補助金を出してコメの供給を減らす減反も、米価が下がると市場から買い入れるのも、市場に介入して米価を上げるための生産者政策だ。他方で、関税の削減、輸入枠の拡大、先物市場の認可による公正な価格形成、農協への独占禁止法(不当な対価引き上げ)の適用、減反の緩和・廃止など、下げるための消費者対策はいくらもあるのに行わない。
生産者の利益は十分に考慮するが、消費者の利益は考慮しない。おコメ券を提案したが、米価はそのままなので農家は史上最高の米価の恩恵を受け続ける。おコメ券を受けられない消費者は高い米価を払い続ける。高米価の根源に3500億円の減反補助金があるうえ、おコメ券も4000億円ほどの財政負担がかかる。マッチポンプ政策だ。犠牲者は多数の消費者と納税者だ。これでは農水省は一部の奉仕者であって全体の奉仕者ではない。
バブル米価でコストの高い零細な兼業農家は農業を続ける。規模を拡大したい主業農家に農地は貸し出されない。健全な農業を作るための構造改革は頓挫する。他方で、零細兼業農家が組合員であり続けてくれるので、農協は莫大な兼業収入を預金として確保し海外等で資金運用できる。
既得権者に農政を丸投げしている高市早苗首相は、農協改革に手を付けた安倍晋三元首相の後継と言えるのだろうか。高米価で消費が減り輸入が急増してコメの在庫は増えている。バブルが弾け米価が暴落したときに政府は価格に関与しないと言うのだろうか。このとき内閣支持率のバブルも弾けないだろうか。
2025年12月2日 日本経済新聞(夕刊)「十字路」に掲載