自民党内で石破おろしが強まる中、石破茂首相は辞めるべきではないという世論が多い。選挙の敗北は石破氏よりも自民党への批判の結果だと国民は思っているのだ。
石破氏にも責任がある。選挙に勝てる顔として、自民党は党内野党として政権を批判してきた同氏を総裁に選んだ。国民も「自民党をぶっ壊す」と言った小泉純一郎元首相のように、従来の自民党とは違うものを期待していた。
しかし、政治も政策も調整型の森山裕幹事長に任せっきりで最後まで石破カラーは出なかった。だから選挙に3連敗したのだ。2024年の衆院選では「裏金問題」を受けて自民党の非公認となった候補者の政党支部に、2000万円を支給したことが敗北の大きな原因となった。
政策面でも何をやりたいのか分からないという声が多い。減税か給付か、というバラマキ合戦に乗るだけで「郵政民営化」のような国民に訴える争点はつくらなかった。続投の理由とする日米関税合意の着実な履行などは大きな課題ではない。
農業政策でも森山氏に推されて、意見の異なる江藤拓氏を農相にした。選挙でコメの増産は口にしたが、党の公約は代わりばえしなかった。コメに関心が集まる中で減反を廃止して米価を下げ、主業農家に限って交付金を直接支払いし、農業の構造改革を推進すると、なぜ勇気を出して言わなかったのか。
大平正芳元首相の死去後、代理の立場にあった伊東正義氏は「表紙だけ変えても中身が変わらなければ意味はない」として首相就任の要請を断った。残念だが石破氏は自民党の中身を変えようとしなかった。裏金問題で離党した議員が復党を画策していることを考えると、首だけすげ替えても同党が国民の信頼と党勢を回復するのは難しいだろう。
2025年8月12日 日本経済新聞(夕刊)「十字路」に掲載