農家の減少を恐れない

山下 一仁
上席研究員(特任)

2023年11月のNHK特集で、食糧管理制度が廃止された1995年から米価が3割低下したため農家が減少し、コメ生産は需要を賄えなくなると警告していた。食料安全保障の観点からコメにも注目が集まるなか、改めてコメの需給と価格、そして政策の関係を考えてみたい。

そもそも、需要に対して生産が足りないのであれば、米価が上がり生産は回復するはずだ。過去に米価が下がったのは、コメ需要が食生活の洋風化などで毎年減少するのに、生産は変化しなかったためだ。生産の過剰である。

生産過剰のまま市場に任せると米価はどんどん下がる。コストの高い零細農家は農業をやめるが、農業票の減少は政治的に好ましくない。このため、農家に毎年3千億円を超える補助金を与えて生産を減少させ(減反=生産調整)、米価下落と農家減少を抑えてきた。減反がなければ米価はもっと下がっていた。

農家が減っても生産力に問題はない。1995年から2020年まで、コメ生産は減反で27%減少、コメ農家は65%も減少したが、宅地などへの転用や耕作放棄があってもコメの生産力を示す水田は13%しか減っていない。多数の零細農家が地代を得ながら低コストで高収益の少数・大規模農家に水田を貸したからである。今では5ヘクタール以上の規模の農家が全水田の半分以上を耕作する。一方で非効率な農家はなお残り、農家の6割がコメを作っているのにコメは農業生産の2割に満たない。

減反をやめれば、生産が増え米価は低下して国民の家計は助かる。米価下落の影響を受ける大規模な主業農家には政府が欧米のように直接支払いを交付して経営を支援する。輸入途絶の危機時には低価格で輸出していたコメを食べればよい――。簡単な政策だと思うのだが。

2024年1月23日 日本経済新聞(夕刊)「十字路」に掲載

2024年1月26日掲載

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