花粉症対策 まず林業政策転換を

山下 一仁
上席研究員(特任)

各地で豪雨による土砂災害が起きている。山林が適正に管理されていないため事態が悪化しているとしたら人災である。政府は、木材自給率向上とか林業成長論を唱え、伐採を推進してきた。5月末には花粉の発生量を減少させるためスギをさらに伐採することを決定した。しかし、伐採された後の7割の山は植林されずに放置されている。山林に植えてある状態の立木の価格が低迷し、森林所有者の経営が悪化しているからだ。雨水を蓄え土を保持する木の働きがなくなれば、水は土と一緒に山腹を一気に駆け下る。

森林所有者が所有する林地の立木を伐採業者が伐採・運搬して丸太にし、これを製材・合板業者が製品に加工して住宅メーカーなどに販売する。これが木材製品のサプライチェーン(供給網)である。林野庁は、丸太価格から伐採・運搬コストを引いたものが立木の価格だと考え、伐採・運搬コストを低下させれば立木価格が上昇し、森林所有者の経営が改善して植林できるようになると考えた。このため、伐採業者に伐採などの高性能機械導入を補助した。

しかし、これで丸太の供給が増えたので丸太価格はピーク時の3分の1まで低下した。さらに、政府の支援で大型化した伐採業者は、地域において立木の購入に独占的な力を行使した。これらから立木価格は丸太価格以上に低下した。林野庁の意図とは逆に、丸太価格が低下したうえ、それに占める立木価格の割合は1980年代の6割から2割へ低下した。

森林所有者の収益を増加させるには、伐採業者への補助を止めて、森林所有者に対し、林地面積あたりいくらという直接支払いを交付すべきだ。林業政策の大きな転換がなければ、花粉症対策は山を荒廃させ豪雨被害を大きくしてしまう。

2023年7月11日付け 日本経済新聞(夕刊)「十字路」に掲載

2023年7月18日掲載

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