コメ減反はカルテル、独禁法違反だ

山下 一仁
上席研究員

コメの減反(生産調整)政策は、農家が共同して供給を制限し、米価を高く維持しようとするものである。直接的な減反補助金として2000億円、減反参加を条件とする戸別所得補償に3000億円、合計5000億円(2011年実績)を政府は財政から支出している。

普通は、財政負担をして国民に安い財やサービスを提供するということになるのだが、この政策は、需要と供給が本来一致する水準よりも価格を高く設定することにより、消費者負担を高めて、農家を保護しようとするものである。この消費者負担は5~6000億円と推計される。つまり、国民は、納税者として、また消費者として、1.8兆円のコメ産業(農家の自家消費分も市場価格で評価して含めている)に対し、1兆円を超える負担をしていることになる。消費税を逆進的だと批判する政党が、コメ政策の逆進性を批判しないのは、不思議でならない。

それはさておき、今回問題提起したいのは、この農家の行為はカルテルそのもので、独占禁止法に違反しているということである。

まず、歴史的な経緯も含め、法律関係を整理しよう。

減反(生産調整)政策は、食管制度の時代の1970年から実施されたが、食糧管理法にこれは位置づけられていない。法律の根拠のない政策として実施されていた。統制経済法だった食糧管理法に基づく行為は「独占禁止法の適用除外法」に指定されていた。しかし、減反政策が食糧管理法に基づくものでない以上、独占禁止法の適用除外法によって、減反(生産調整)というカルテル行為が独占禁止法上容認されていたわけではない。

食糧管理法廃止後、94年に成立した「新食糧法」(主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律)は生産調整を法律第五条に位置づけた。しかし、新食糧法の行為は「独占禁止法の適用除外法」に指定されないこととなったため、新食糧法によってもカルテル行為が独占禁止法に違反していないということにはならない。

第五条 米穀の生産者又は出荷の事業を行う者の組織する団体その他政令で定める者(以下「生産出荷団体等」という。)は、農林水産省令で定めるところにより、米穀の生産調整に関する方針(以下「生産調整方針」という)を作成し、当該生産調整方針が適当である旨の農林水産大臣の認定を受けることができる。

新食糧法第五条の「生産出荷団体等」とは、農協を指している。つまり、新食糧法に規定された減反政策が独占禁止法の適用除外を受けなくても、農協が生産者のために行うカルテルが独占禁止法の適用除外を受ければ、減反政策は独占禁止法違反ではなくなる。これまで、農協のカルテルが独占禁止法の適用除外を受けることを前提として、農林水産省は減反(生産調整)を実施してきた。果たして、今でもその前提は当てはまるのだろうか。農協のカルテルと独占禁止法との関係を詳しく検討しよう。

独占禁止法では、共同して生産したり、販売したりすることなどで競争を制限するカルテル行為は原則として禁止されている。しかし、小規模事業者等が協同組合を組織する場合には、独占禁止法の適用除外となっている。

単独では大企業に伍して競争していくことが困難な小さい事業者や交渉力の弱い消費者も、共同して生産や販売、購入をすれば、形式上は独占禁止法に違反することになる。したがって、このような事業者などが互いに助け合うことを目的として、協同組合を組織した場合には独占禁止法の適用を受けないようにして、市場で有効に競争したり、取引したりすることができるようにしたものである。あくまでも小規模事業者の救済のための規定である。

具体的には、独占禁止法第22条で、
(1)小規模事業者または消費者の相互扶助を目的とし、
(2)任意に設立され、組合員が任意に加入または脱退することができ、
(3)各組合員が平等の議決権を有し、
(4)組合員に対する利益の分配の限度が法令または定款に定められている、
という要件を備えた組合および連合会の行為には、独占禁止法を適用しないとしている。

なお、これらの組合であっても、ほかの事業者と共同して特定の事業者との取引を拒絶したり、共同行為からある事業者を不当に排除したりするような「不公正な取引方法を用いる場合」又は「一定の取引分野における競争を実質的に制限することにより不当に対価を引き上げることとなる場合」は独占禁止法が適用されることになっている。

逆に、独占禁止法第22条によって、協同組合が独占禁止法の適用を受けない行為の1つは、他の事業者の事業活動を排除し、または支配することによって、一定の取引分野における競争を実質的に制限する(「私的独占」)場合であり、もう1つが、他の事業者と共同して価格を決定したり、数量などを制限するなど、互いに事業活動を拘束することによって、一定の取引分野における競争を実質的に制限する場合、つまり、カルテルの場合である。減反(生産調整)政策は、カルテルそのものである。

このとき100円の農産物価格を150円にすれば、「不当に対価を引き上げる」こととみなされて独占禁止法違反となるが、カルテルで110円程度に引き上げる場合には、協同組合は独占禁止法違反を問われない。

独占禁止法第22条に照らし、生協は問題なく独占禁止法の適用除外を受ける。しかし、農協はそのままでは独占禁止法第22条の要件を満たさない。農協は、正組合員である農業者だけでなく、地域住民であれば誰でも組合の施設を利用できる准組合員制度を持っているからである。

准組合員は(1)の事業者ではないし、(3)の議決権を持っていない。つまり、准組合員を有する農協は、独占禁止法第22条の(1)と(3)の要件を満たさないので、本来なら独占禁止法の適用除外規定の対象とならないのである。このため、農協法第9条は、農協は独占禁止法第22条の(1)と(3)の要件を備えるものとみなすと規定して、これを救済している。みなし規定とは、そうでないものをそのように扱おうというものである。

どんな地域のJA農協にも、准組合員はいる。つまり、農協法第9条がなければ、JA農協には、独占禁止法が適用されてしまうのである。生協には准組合員制度がないので、このような規定は不要である。

しかし、(1)と(3)の要件を備えるものとみなすとしても、今の農協は(2)の要件を満たさない。農家が自由に農協を設立することは認められていないのである。農協を新たに設立しようとしても、2001年に農協法を改正して、都道府県のJA農協連合会の協議を経なければ設立できないようにしてしまったからだ(同法第60条第2項 行政庁は、農業協同組合であってその地区の全部又は一部が他の農業協同組合の地区と重複することとなるものについて前項の認可をしようとするときは、農林水産省令で定めるところにより、関係市町村及び関係農業協同組合中央会に協議しなければならない)。

JA農協の県中央会がライバルとなるJA以外の農協の新規設立を認めるはずがない。これはJA農協の既得権益を守るための規定にほかならない。この規定は、協同組合の基本である"自由設立主義"の思想に根本から反する。生協には、こんな規定はない。この規定は3年前行政刷新会議でも削除すべきとの結論が出され、廃止を閣議決定しているのに、農林水産省は農協法の改正法案を未だに国会に提出していない。農林水産大臣も出席した閣議で決定した事項を、農林水産省の事務局が3年以上も無視するという信じられない行為が継続している。

つまり、現行農協法の下では、JA農協は独占禁止法の適用除外を受けないことになるのである。したがって、JA農協が行うコメの減反・生産調整というカルテル行為は、独禁法違反であり、直ちに廃止されるべきものである。

さらに、仮に農林水産省が農協法の改正法案を国会に提出し、農協が独占禁止法第22条の要件を満たすとしても、依然として独占禁止法違反の疑いが強い。コメの需給均衡価格は8~9000円/60kgであるのに、減反(生産調整)政策によって1万6000円の米価を実現しているとすると、これは独占禁止法第22条が適用されない「不当に対価を引き上げる」場合に該当する。

減反(生産調整)政策は独占禁止法に違反している。政府は速やかに減反政策を廃止すべきである。政府が問題提起しなくても、独立的な機関である公正取引委員会は、農林水産省に減反廃止を申し入れるべきではないだろうか。財務省時代から農政に明るい杉本和行氏が公正取引委員会の委員長に就任された。杉本氏の活躍に期待したい。

2013年4月25日「WEBRONZA」に掲載に掲載

2013年5月29日掲載

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