女子別学のメリットいかせ

鶴 光太郎
プログラムディレクター・ファカルティフェロー

社会との接続を担うという意味で、いつの時代にも大学の果たす役割は大きい。しかし、それを取り巻く環境はますます厳しさを増している。

1990年代以降、18歳人口が減少しているにもかかわらず、大学は増え続けた。財務省は、足元では半数を超える私立大学が定員割れしているという状況を踏まえ、2040年に向けて、少なくとも250校程度の学校数縮減が必要との考え方を示している。

その中で四年制女子大をみると、98年のピークの98校から、近年では共学化が進むとともに募集停止・閉校のケースもあり、2025年には66校と約3割減少している。生き残りを懸けた戦略の検討が必要なのは、共学校も女子大も同じだが、とくに女子大において、新たな人材育成に取り組むケースも出てきた。

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一つ目は、奈良女子大、お茶の水女子大、日本女子大の工学系学部の新設である。二つ目は、京都女子大を皮切りとした、データサイエンス系学部の新設ラッシュである。筆者の勤務する大妻女子大、昭和女子大などが後に続いている。本稿では、共学化の流れが続く中で、女子大のメリットは何か、経済学の視点で検討してみたい。

米国でも、女子大は1960年代には200校以上あったが、近年では30校近くまで減少している。中でも著名なのは、「セブンシスターズ」と呼ばれていた名門女子大7校であろう。そのうち5校は女子大として残り、存在感を発揮し続けている。

特に、米国務長官を務めたヒラリー・クリントン氏とマデレーン・オルブライト氏の母校であるウェルズリー大はその代表例だ。小規模のリベラルアーツ大学であり、少人数授業、教員と学生の距離の近さなどを特徴としている。

特筆すべきは、リーダーシップ教育で大きな成果を上げていることだ。学内の組織、団体、プロジェクトのリーダーを担うことで、リーダー経験を積みやすいという利点がある。米国の女子大学連盟によれば、フォーチュン1000企業の女性取締役の約3分の1、議会の女性議員の20%以上が女子大出身であると報告されている。

こうしたデータから、女子大にはリーダーシップ養成の効果があると結論づける向きもあるかもしれない。しかし、自己選択バイアスが働いている可能性に注意しなくてはならない。つまり、大学の教育による効果ではなく、もともとリーダーシップ能力の高い学生が女子大を選んでいる可能性があるということだ。このため、女子大と共学校を単純に比較することは適切ではない。

大学に限らず、男女別学か共学でどのような違いがあるのかを厳密に分析するためには、入学者が別学か共学かにランダムに振り分けられるような状況、つまり、自然実験の環境下で実証分析を行うことが必要となるからだ。もちろん、そのような状況が当てはまるケースはかなり限られているが、特に経済学では、2010年代以降、そのような手法を利用した別学研究が主流となっている。具体例をみてみよう。

スイスに、女子生徒が多いため、女子生徒を共学クラスと女子のみのクラスにランダムに配分している共学高校がある。この自然実験的な状況を利用した分析によれば、女子のみのクラスに入った生徒の方が数学の成績が向上し、その効果は、もともと能力が高い女子で、より大きいことを見いだした。

英国の共学大学で、1年次が修了した学生に対し、学外で週1時間だけ女子のみのクラス、男子のみのクラス、共学のクラスに無作為に振り分けて講義を行い、その後の推移をみた。すると、女子のみのクラスは共学クラスより高い成績、単位の取得率を示し、出席率、任意課題の提出率も高いことがわかった。男子には、そのような別学クラスの効果はなかった。

自然実験という観点から、多くの実証研究の対象となったのはソウル市のケースである。

韓国では1974年以降、教育機会の不平等是正を目的に高校平準化政策が導入された。別学校の割合が高いソウル市では、学生を学区内の男子校、女子校、共学校の高校に抽選でランダムに振り分けるなど自然実験に近い環境にあり、別学の効果を検証する研究者に格好の機会を与え、多くの研究が生み出された。

ただ、2020年代初めまでの研究では、他国の自然実験の研究のように、女子にとりわけ強い正の効果がみられるわけではなかった。むしろ、長期のデータで検証すると、別学で学んだ女性の方が、将来所得が有意に低下することを示す分析もあった。

しかし、この2、3年に発表された新しい実証分析をみると、男子では明確な効果はみられないが、女子別学の正の効果を示す研究が増えてきている。例えば、通常、女子は男子に比べて競争を回避する傾向があることが知られているが、より競争的でプレッシャーのかかる大学入試などでは、別学となった女子は重圧の下でも成績(特に数学)で顕著な向上を示した。

また、別学の女子の中でも成績上位層は、精神面での改善が大きく、別学のメリットを享受しやすいという研究もある。別学の女子は共学に比べて政治参加意識が高く、リーダーを経験する確率が高いことを示す研究もある。

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では、女子別学の長期的な影響はどうか。学区やコホートの影響を統制した分析では、女子のみ別学ではプラス効果が表れ、共学出身者より賃金が12〜16%高くなっている。これは女子高出身者の方が高学歴で職業訓練期間が長いことが影響している。

また、賃金のみならず、様々な人生のアウトカムに着目した分析では、別学で学んだ30〜40代の女性は高学歴、フルタイム勤務、競争・リスクへの選好、働く母親へ肯定的な態度をとる可能性が高いことも明らかになった。特定の国・地域を対象とした分析なので、解釈は慎重にすべきだが、同じアジアの国で、男女の役割分担意識が欧米よりも強い国、という意味で、日本にとっても参考となる結果といえる。

表:女子別学に期待されるメリット

通常、女子別学のプラス効果は、理数系科目が苦手というステレオタイプ、リーダーは男子がやるべきだという性別役割意識、さらには学業への妨げになりうる異性への意識からの解放などから生じると説明されることが多い(表参照)。そして、マイナス効果は、異性との交流が少なくなることで、職場での異性の同僚との意思疎通に支障をきたすとの指摘もある。

しかし、共学校出身で優秀な女性ほど、あうんの呼吸で男性を立て、一歩引くことを意識する場合が多いかもしれない。むしろ、別学で自信・自己効力感を高め、異性と積極的にやり合うことができるようになることこそ、新たな意思疎通のあり方ではないか。

2026年5月12日 日本経済新聞「経済教室」に掲載

2026年5月14日掲載

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