Start Up 中小製造業のIoT

第10回 研究会に参加したモデル中小企業の試行錯誤の体験③ -株式会社正田製作所-

井上 雄介
リサーチアシスタント

岩本 晃一
上席研究員

「IoTによる中堅・中小企業の競争力強化に関する研究会(以下、IoT研究会)」が検討対象としたモデル企業のうち、本稿では株式会社正田製作所のIoT導入事例について紹介したい。

同社は、ステアリング・エンジン・足廻り各種部品といった自動車関連部品の製造メーカーである。特筆すべきは、「トヨタ生産システム(TPS)」を参考に自社向けに考案した独自の生産システム「正田生産システム(SPS)」である。同社は、「狭い分野でも世界一を目指す誇り高き技術屋集団」を経営コンセプトに、日本を下支えする製造企業である。正田製作所が抱えていた課題は、IT・ICTの導入に出遅れてしまっていたことだ。不況の折、大手親会社からの受注も減っていたこともあり、納入先の新規開拓のためにも、なにか策を練る必要があった。IoT研究会に参加したのは、IoTというツールを「モノづくり」と結びづけることで、付加価値を高めるためである。

検査自動化で働き方変える

正田製作所が試みようとしている新たな構想とは、女性や高齢者でも短時間で気兼ねなく働けるような生産ラインを構築するというものである。これまでは、若手従業員と同じ作業スピードを維持するため、早く出社して準備を始めるなど高齢者従業員には大きな負担を強いている状況であった。そこで、「作業環境に負担の少ない職場の構築」をするため、検査機にセンサーを取付け、品質チェックを自動管理し、異常発生時には通知が送信されるよう改善しようと考えている。検査工程にIoTの技術を導入することで、労働者の負担を軽減しながら出荷製品の品質向上を図ろうと考えたのである。

労働環境改善のため、現在までに、社内にLANをひき、工場間の連携を図るためVPNを導入した。加工機には、自動計測・自動寸法補正機能を取付けたラインもある。円滑な情報共有を目指すため、PHS・タブレットを一部の社員に支給した。また、検討中の最終検査機は、200〜300万円ほどで実現すると思われる。得られるリターンの試算は次の通りである。検査工程を自動管理化することで、作業工程に特別なスキルが不要となれば、これまで正社員を配置していた製造ラインをパート的労働者に代替可能となる。これは正社員20人の年間労働賃金を、半分以下に圧縮できるとの試算である。その削減効果は大きく、年間約6000万円程度になるとのことである。

IoTは「ツール」

正田製作所はこうして生産ラインのIoT化に大きく舵を切った。特に重要であったのは、「少しずつできるところから切り崩して、挑戦すること」である。前述した検査工程の自動化には、当初3000万円ほどの投資費用が算定されたが、安く自社開発することで対応する。なんでも大手企業と同じ設備を導入する必要はない、IoTへの過信・依存は本末転倒でしかない、肝要なのは「IoTはツールに過ぎない」と理解し、自社に合ったものだけ取り入れる姿勢である、というのが同社の考え方である。

同社の次の目標は、3DデータとCAMシステムを接続することで、加工工程を自動化し、納期の期間を大幅に圧縮する「超短納期」を実現することである。こうして付加価値を高めることで、遠隔の企業へと販路を拡大し、ゆくゆくは米国などの大手自動車会社からの受注に対応するのが同社の夢である。今後の正田製作所の販路開拓や海外展開に至る動向は注目に値する。

2017年10月25日 日本物流新聞「Start Up 中小製造業のIoT」に掲載

2017年12月19日掲載