「IoTによる中堅・中小企業の競争力強化に関する研究会(以下、IoT研究会)」が検討対象としたモデル企業のうち、本稿では株式会社日東電機製作所のIoT導入事例について紹介したい。
同社は、「NT−MOLシステム」という自社独自の生産管理システムを開発し、電力制御機器の設計注文から製造販売まで一貫した製品供給を行っている。地元群馬県からは、その実績を評価され、「中小企業モデル工場」に認定され、日本の電力業界に貢献している。
① 解決すべき課題:「カイゼン」による生産性アップ
日東電機製作所がIoT研究会に参加したのは、最新技術であるIoTを自社に導入することで、(1) 製造工程の手作業体制の自動化、(2) やや古くなった「NT-MOLシステム」を「カイゼン」するためであった。制御盤製造工程のうち、ワイヤー加工作業は手作業であり、しかも製造時間の6割以上を占めるため、ロボットによる自動化で、作業効率の向上を図りたいと考えた。一方、「NT-MOLシステム」については、導入したのが1980年代であり、年々システムを修正・拡張してきたが、IoT技術を付加することでさらに効率化しようと考えた。
② IoTを用いた課題解決:「ワイヤ・センターのロボット化と生産管理システムのIoT化」
そこで同社が実施したのが、ワイヤ・センターのロボット化と業務改善診断であった。当初は製造工程全体にIoTを導入しようと考えていたが、「大手企業でも一部手作業で取り組んでいる」という、IoT研究会の指摘もあり、部分ごと自動化を優先することに決定した。
生産管理システムに関しては、古い非効率箇所を特定するため、業務改善診断を行い、新たに「設計データ」「製造データ」のシステムを追加することで、データファイリングを徹底し、情報検索の簡易化を目指した。
③ 投資対リターン
ワイヤ・センターについては、ロボットが得意な作業はロボットに任せ、人間にまかせるべき作業は依然として人間が担うことで、ロボット作業が、手作業業務と並行することで、実用化に近づいている。投資費用は1700万円ほどだが、リードタイムの短縮・作業能率の向上・人員削減による「カイゼン」効果は、500万円/年ほどを見込んでいる。「NT-MOLシステム」については、情報の共有化が進むことで、「重複業務」「後戻り」などがなくなり、生産性向上に大きく貢献してくれると予想している。診断結果から、作業時間の2割を改善できるとの試算であったので、システムのIoT化が完成すれば、1800万円ほどのリターンに繋がるとのことである。
④ 「試行錯誤こそが『ノウハウ』」
日東電機製作所は、「一体何をどうすればIoT化といえるのだろうか」と常に悩み、「研究会で1つ1つの課題を検討し、その成果を報告する過程で、成功と失敗を繰り返した」という。しかし、「重要なのは単なる成功ではなく、その“過程”だった」「巷で提供されるIoT化の事例は成功事例でしかない。技術者としては、その過程で得られる経験やノウハウこそが貴重な財産なのだ」「導入までの試行錯誤こそがノウハウだ」という同社社長の言葉には、技術者として今回のIoT導入によって得られた成果が十分に大きかったことを伺わせている。
⑤ 次の目標
同社の次の目標は、制御盤製造の完全な自動化と生産管理システムの段階的な拡張である。人とモノとをつなぐIoTを、自身のノウハウと体験をもとに活用する日東電機製作所の今後の発展は、追随する企業の有意義なモデル・ケースとなることだろう。
2017年10月10日 日本物流新聞「Start Up 中小製造業のIoT」に掲載