Start Up 中小製造業のIoT

第8回 研究会に参加したモデル中小企業の試行錯誤の体験① -株式会社東京電機-

井上 雄介
リサーチアシスタント

岩本 晃一
上席研究員

「IoTによる中堅・中小企業の競争力強化に関する研究会(以下、IoT研究会)」が検討対象としたモデル企業のうち、本稿では株式会社東京電機のIoT導入事例について紹介したい。

同社は、非常用・防災用発電装置を取り扱う製造メーカーである。昨今高まる災害などで増加した需要に上手く対応している同社であるが、実は「アナログ」な課題に直面していた。

① 解決すべき課題:「紙によるデータ管理と生産体制の非効率性」

これまで同社では、発電機の設計図も紙のまま使用・保管しており、また販売前の検査データは、紙面に一度記載した後、再度、清書のためパソコンに転記するなど、作業が煩雑かつ誤入力があった。「倉庫が紙の図面でいっぱいの状態」で管理体制が非効率であった。受注生産や急な発注の多い同社では、現場作業員が何度も問い合わせなければならず、工程会議での最新情報の共有も非効率であった。

② IoTを用いた課題解決:「ペーパーレス化による情報管理」

そこで同社が目指したのは、生産管理システムのIoT化によるペーパーレス化・情報の一元化である。IoT研究会で検討を重ね、同社は、現場帳票ソフトとタブレット(および付属機器)を導入した。2016年9月から試験的にデータ入力を開始したところ、作業状況の改善が可能だと判断したため、2017年3月以降、本格的な導入を始めるに至った。

帳票ソフトの導入で、各紙面データを一元管理可能となり、物理的な省スペース化が進んだ。さらにタブレットと同ソフトを連携させることで、データーベースを作成し、各部門での最新情報の共有が実現したのである。

③ 投資対リターン

データの記入は、タブレットで管理し、二重入力が削減できた。また可視データ(図面や写真など)を共有できるようになったことで、現場部門の責任者や顧客と円滑なコミュニケーションが可能となった。

実際に今回の投資対リターンをみると、投資額は、現場帳票ソフト・タブレット・付属機器に約400万円程度、導入までに7カ月程を要した。リターンは、作業工数の削減で、年間150万円のコスト・カットを見込んでいる。つまり、東京電機は、3年弱で投資額を回収しながら、かつ7カ月という短期間で、情報の一元化・ペーパーレス化を進めたのである。

④ IoT導入が変えた社員のモチベーション

東京電機がIoTを導入したメリットとして上げたのが、「サービスに対する意識の向上」であった。社員にタブレットを持たせ、会議室にプロジェクタを入れるようになると、一人ひとりの目線が上がり、顧客の表情を見ながらコミュニケーションできるようになった。接客に対する考え方も変化し、工場見学の際も、社内の元気な挨拶が行き届くようになった。「以前と変わった、まるで別の会社のようだ」という顧客からの言葉が大きな励みとなっていると、同社の社員はいう。IoT導入が直接的な効果だけではなく、社内環境の改善に効果を発揮することは研究会にとっても驚きであった。

⑤ 次の目標

東京電機の次なる目標は、製造工程にもIoTを導入し、製造ラインの自動化や、発電装置に通信機能を取り付けることでデータを収集し、メンテナンスなどのアフターサービスに注力することである。コスト低下と高付加価値の製品を提供することで、集客力を向上させることが狙いだ。

2017年9月30日 日本物流新聞「Start Up 中小製造業のIoT」に掲載

2017年12月19日掲載