Start Up 中小製造業のIoT

第3回 なぜ中小企業にはIoT導入が難しいのか

岩本 晃一
上席研究員

まず、ほとんどの中小企業の社長は、IoTなどという「よくわからない」ものに近づこうとしない。今、何も困っていないし、得体の知れないものに手を出したばかりに現場が大変なことになったら困るからだ。 しかも日本の中小企業の動きは受動的である。それは、「系列」という日本的な特殊環境の下で、長年、培われた経験則のようなものだろう。 IoTの導入検討に当たっては更に、次のようなやっかいなハードルが待ち構えている。これらの課題も研究会を通じて明らかになった。

① 平行線の議論から始めなければならない

中小企業側は、「自分の会社にIoTを導入すると、一体、どういうメリットがあるのかを教えてくれ」と言う。

一方のIoTシステム提供側は、これまで大企業から、具体的なスペックを以て受注を受けていたので、「具体的にスペックを以て発注してくれないと何もできない」と言う。双方の意向が大きく離れていて、議論が噛み合わない平行線の状態から、導入検討が始まる。

② 自分の会社が抱える具体的な「課題」がわからない

中小企業は、「売り上げを増やしたい」「生産性を高めたい」「コストを削減したい」「品質を高めたい」などのニーズを持っているが、企業自身が抱える「課題」、すなわち「具体的に何をどうしたいのか」が明確にならないと、IoT導入は前に進まない。だが長年、同じやり方を続けているので、自社のどこが「課題」なのか、分からなくなっている。

③ 現場からの強い抵抗

研究会のモデル4社の事例ではないが、ある企業の説明では、IoTシステム提供企業が現場に入って、最初に遭遇する課題は、現場からの抵抗だという。現場の作業員はきちんと仕事をしている、という誇りを持っている。そこに、IoTを導入しようとすれば、自分たちの仕事が、あたかも「ずさん」であると見られていると捉えてしまうことがあり、強い抵抗感を示すケースが多い。IoT導入を進めるためには、社長の強力なリーダーシップが必要になる。

④ 社長自身の決断力

IoTシステム提供側からいくつも出される課題解決アイデアの中から、どれを選ぶかは、社長自身が決めなければならない。

IoT導入は、社内体制や従業員の教育訓練など、社内に大きな変化をもたらし、再設計が必要となる(その再設計を担う人材をデザイナーと呼ぶ)。その変革を主導し、また、投資金額を決定できるのは、社長だけである。

⑤ 労働集約的な生産活動を前提とせねばならない

中小企業の生産現場の多くは、自動化が進んでおらず、IoT導入を検討する上では、労働集約的な生産を前提としなければならないケースが多い。自動化が進む大企業と違い、自動化投資より人件費の方が安いからである。

労働集約的な職工による生産が行われている現場では、データを集める対象となる電気信号自体が工場内に存在していないことが多い。

⑥ システムエンジニアがいない

中小企業には、通常、システムエンジニアがいないことが多い。「当社はIT対応しています」と言う企業でも、業務管理系パッケージソフトを買ってきて使っているだけのことが多い。自社のための特注システムを開発・運用し、維持管理やバージョンアップするといった経験がなく、IoTシステム供給企業の専門家との間で、議論がなかなか通じないことが多い。また、IoT導入後、会社の中で維持管理する人がいないという問題は、中堅・中小企業にIoT導入を更に困難化させる大きな要因である。

2017年7月10日 日本物流新聞「Start Up 中小製造業のIoT」に掲載

2017年12月19日掲載

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