Start Up 中小製造業のIoT

第2回 IoTによる中堅・中小企業競争力強化研究会

岩本 晃一
上席研究員

新聞紙上には毎日のように、IoTに関する記事が載っているが、残念ながら、それらはほぼ例外なく大企業である。日本の中小企業の現場に本格的なIoTを全面導入して実績を出したという事例は極めて希だ。

その理由はシンプル。「よく分からない」の一言に尽きる。

「よく分からない」には2通りの意味があり、1つ目は、「技術が難しくて良くわからない」、2つ目は、「自分の会社にどのようなメリットがあるのかよくわからない」という意味である。

筆者の経験上、他社の「導入成功事例」を見るだけで、IoT投資を決断する中小企業の社長は、まずいない。導入にどんな困難が待ち受けているのかが分からないため、「自分の会社がめちゃくちゃになったら困る」と不安が募るからだ。

その不安を解消しない限り、中小企業の社長は、IoT投資を決断できない。

この課題を解決するべく、筆者は経済産業研究所において、「IoTによる中堅・中小企業の競争力強化に関する研究会」を2016年4月から主宰してきた。

初年度のモデル企業はまず中小企業の基本形である「機械系製造業の工場の中」を検討対象とするため、日東電機製作所、東京電機、正田製作所、ダイイチ・ファブ・テックの4社に参加願った。うち前2社がB to C、後2社はB to Bである。

研究会は、モデル企業によるスタート時の検討内容、導入途中の困難とそれを乗り越えた方法、廃棄した投資案、最終的に社長が判断した投資内容、投資対リターンの数字など、最初から最後までのノウハウを「全て公開」することで、全国の中小企業の社長に、自社の現実の問題として実感して頂きたいと考えた。

実際にモデル中小企業4社が導入を表明したIoTを総括すれば、(図解1)のようになる。

図解1:モデル中小企業4社が導入を表明したIoTの条件
①企業の資金力を超える投資が必要なものは除外
②計算したところ投資対リターンが小さかったものは対象外
③導入後に自社で維持管理できないものは対象外

いきなり高いレベルを目指すのでなく、まず現実的なところからスタートしようとした結果と言える。これらの対策が現実的に効果を現すのは、1〜2年後であろう。その時点でまた、次の可能なIoT導入を検討する、という着実なステップが中小企業にとって現実的な手法ではないだろうか(図解2参照)。

図解2:中小企業のIoTステップ
図解2:中小企業のIoTステップ

また、当研究会を通じて分かった中小企業向けIoT導入のポイントは、(1)企業が抱える「課題」を見いだすこと、(2)「課題」の「解決策」を見いだすこと―の2点だ。

しかも、1社ずつ全て「課題」「解決策」が違うというケースバイケースに対応しなければならない。この業務を担う高度な専門技術職を社内で組織的に養成すること、そして「課題発見」「課題解決」の業務を組織的に進めるためのノウハウを社内に蓄積することが必要である。

その高度な専門技術職は、世間では、「デザイナー」「データサイエンティスト」と呼ばれている。

たとえば、作業員が2時間おきに立ち寄って紙に書き取るくらいの数字の精度でも十分であれば、なにも敢えて数百万円を投じてセンサーやライブカメラなどを設置する必要など全く無い。課題解決によって得られるリターンを前提として、それに相応しい投資金額を考えることが重要である。

こうした投資対リターンにより、必要なデータの精度を考えることも、「データサイエンティスト」の重要な役割である。

2017年6月25日 日本物流新聞「Start Up 中小製造業のIoT」に掲載

2017年12月19日掲載