新型コロナウイルス危機には今までにない経済政策対応が必要

Shiro ARMSTRONG
ヴィジティングスカラー

新型コロナウイルスによる危機に見舞われている経済を救うため、各国政府はシャットダウン、ロックダウン、回復という各フェーズを対象とした経済支援政策を設計し、早急に責任を持ってこれを実行しなければならない。より長期的な成功のため、このような政策戦略はシンプルで、明確に打ち出され、かつ実績あるオーストラリアの政策革新を取り入れる必要がある。

多くの政府が打ち出している緊急の公衆衛生対策によって、国民経済活動のかなりの部分が失われている。経済の幅広い領域を対象としたシャットダウンは既に雇用に影響を及ぼしはじめており、多くの国で失業率が急上昇している。いくつかの国では失業率が1930年代の世界大恐慌以来の水準に近づきつつある。特別な支援を行わなければ、長期的な失業に陥る人が続出するだろう。

シャットダウンやロックダウンの期間中は多くの人が自宅にとどまるが、食料や住居を確保するための個人向け支援と、従業員の解雇や倒産を防止するための企業向け支援を同時に行わなければならない。それこそが、オーストラリア政府が最初に打ち出した2つの緊急経済対策の目的だった。同じ目的を達成するために、英国政府は多くの従業員の賃金の80%を肩代わりしようとしており、他の政府も同様の政策戦略を展開している。

新型コロナウイルス危機が収束するまでの間、収束後の急速な景気回復に向けて経済を現状のまま凍結させておく必要がある。景気回復の段階では差し迫った需要に応えるため、政府は迅速に財政支出を増大させなければならない。

的を絞った支援と迅速な景気刺激は景気が回復し始めたら、その回復を遅らせることなく、その回復によって財政支出分が賄われるような方法で展開する必要がある。

今はインセンティブを微調整するための複雑なルールや方法を検討しているときではない。そのような対応は多くの国や地域で必要となる効果的な対応を遅らせ、最終的には失敗させてしまう。新型コロナウイルス危機が経済に及ぼす脅威は、リーマンショックのときよりもはるかに大きい。

政府は支援対象者を選別する必要もなければ、銀行などにどの企業を救済すべきか判断させる必要もない。その代わりに、景気が回復するまで返済が猶予される特別緊急支援融資によって、経済的困窮者や資金繰りに苦しむ企業への特別支援を行うことができる。例えば、生活保護受給者なら誰でも最長1年間、最低賃金相当額までの追加支援を受けられるようにすべきであり、企業については過去の売上高に応じて借り入れができるようにすべきである。

支援を受ける資格基準は必要だが、厳しく制限されるべきではない。市民権や住民登録がなく就労ビザで各国にとどまっている無数の人々のことも考慮に入れる必要がある。

個人や企業は、所得が十分に回復したときに融資を返済すればよい。米国の経済学者でジョージ・W・ブッシュ元大統領の顧問を務めたグレゴリー・マンキューが説明するように、支援対象者を選別して事前審査を行う代わりに、事後審査を行う方法がある。これはオーストラリアでオーストラリア国立大学のワーウィック・マッキビン教授をはじめとする経済学者によって支持されている政策戦略である。

特別緊急支援はすべての個人や中小企業に融資として提供できる。だが、この融資では、個人の所得や企業の売上高が融資を返済する余裕がある水準に達するまで、返済を猶予される。景気が回復し、所得が一定の閾値に達した後に、課税によって融資を返済することができる。これは、オーストラリア国立大学のブルース・チャップマン教授が高等教育費の支払いのために考案した所得連動返還型ローン制度と同じ仕組みである。この高等教育ローンプログラム(HECS-HELP)では、学生は卒業し就職した後、所得が一定の閾値に達した時点で徴収が開始される課税方式で大学授業料を返済する。

特別緊急支援融資は返済が可能な人にとっては融資だが、経済的困窮が続く人にとっては、実質的に給付となる。大学授業料の所得連動型ローンと同様に、債務者は債務不履行となることができない。ただ、経済的困窮を回避するような返済設計が可能であり、経済行動をゆがめない、公平かつ効果的な設計がしやすい。

返済率は景気が回復した時点で融資を返済するように設定できる。高く設定した所得閾値を超えた時点で少額ずつ返済金の回収を始めるようにすれば、雇用機会が増えたときに再就職を抑制することにはならない。さらに高い所得閾値においてより多額の返済金を回収しても、人々の経済行動を変えることはない。同じ原則は企業の売上高にも当てはまる。危機を切り抜けた高所得者や好業績企業は、融資をいち早く返済するだろう。所得連動型ローンによる特別緊急支援によって、不況からの回復に向けて累進課税制度を強化することができる。

大学授業料の所得連動型ローン制度は、税務署を通した事務管理にさほど費用がかからないことを示している。ローンの利用申請は、簡単な資格確認プロセスを含む、税務署のオンライン登録で完了できる。

国民が福祉事務所に列をつくったり、支援が必要なことを証明する苦労を強いられたり、予算や税務上の制約を付けずに、本当に必要とされている政府支援を今すぐ提供し、必要に応じて規模を増大させ増やしていくことは可能である。また、確実な財政の自動回復メカニズムを通して、将来の納税者のお金をむやみに使わずに支援を実施することもできる。こうした制度は、経済学者が自動安定装置と呼ぶ機能を果たし、必要なときに所得補償を提供し、そうでないときはこれを自動的に回収する。

今日の各国政府の経済的優先課題は、自国経済を持ちこたえさせ、企業と従業員の雇用関係を維持し、大量の失業者を生む深刻な不況を回避して、V字回復に向けた態勢を整えることである。特別緊急支援の所得・売上連動型ローン制度によってこれを実施するのは、財政的にも確実な方法であり、必要なところにより迅速により多くの支援を提供することにもつながる。財政再建は今の優先課題ではないが、いずれ優先課題になる日が近いことを願っている。

3月28日 East Asia Forum https://www.eastasiaforum.org/ に掲載

2020年4月24日掲載

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