経済を見る眼 法人税法の中小企業基準を見直すべきだ

佐藤 主光
ファカルティフェロー

中小企業はわが国の企業数の99%余り、雇用の約7割を占めてきた。その中小企業にはさまざまな税制上の優遇がある。

国の法人税率は23.2%だが、中小企業は年800万円以下の所得金額部分は税率が現行15%(本則19%)に軽減されている。また、繰越欠損金の控除額は大企業なら所得金額の50%が限度のところ、中小企業は全額が認められる。

研究開発税制でも中小企業の控除率・控除上限は優遇対象だ。2024年度税制改正では賃上げをした赤字の中小企業は最大5年間、減税を繰り越せることになった。

ここで問題になるのは企業の規模の測り方だ。実際、大手の新聞社や芸能プロダクションも中小企業だったりする。なぜか。

法人税法の中小企業基準

法人税法において企業は資本金1億円超の大企業と1億円以下の中小企業に区別されている。この資本金については企業の裁量が大きい。あえて資本金を1億円以下に抑えれば中小企業になることができる。

その誘因が明らかになったのが地方法人二税の1つである外形標準課税だ。同課税は資本金1億円超の大企業のみに適用される。しかし、課税対象となる企業は06年度をピークに減少、20年度には3分の2まで減ったという。意図的に課税を避けているのだろう。

このため25年度以降、これまでの大企業が1億円以下に減資したとしても、資本金と資本剰余金の合計額が10億円を超える限り、引き続き外形標準課税が行われることになった。とはいえ、新たな課税の基準が恣意的なことは否めない。

他方、欧州の主要国では売上高が中小企業の定義に使われている。関連してOECD(経済協力開発機構)諸国などで合意された新たな国際課税の枠組みにおいても売上高が基準の1つとなった。

国際課税原則の見直しに該当する「第1の柱」の場合、全世界売上高200億ユーロ超かつ利益率10%超の多国籍企業が課税対象となる。実効税率15%のグローバルミニマム課税を行う「第2の柱」では総収入金額7億5000万ユーロ以上の多国籍企業が対象だ。

売上高を新たな区分へ

わが国でも資本金に代えて売上高を中小企業の基準としてはどうだろうか。より漸進主義的な見直しとしては、資本金による区分はそのままに、売上高が一定額以上の中小企業に対しては優遇措置を適用しないこともありうる。

課税における売上高の活用としてすでに消費税がある。課税売上高が1000万円を超える事業者は消費税の納税義務者になる。

むろん、売上高は毎年変動する。売上高が基準額近辺の企業は年によって大企業か中小企業かが変わりかねない。よって課税年度からみて、例えば過去3カ年の売上高の平均値を基準とするのはどうか。

企業の成長を促進する観点からは、いったん売上高が基準を超過した(中小企業を卒業した)後は、その後基準以下に売上高が落ち込んでも原則、再び中小企業としては処遇しないのも一案だ。

一般に売上高は企業活動の成果であり、規模を測る指標として妥当と思われる。大企業と中小企業の新たな区分になりうるだろう。

週刊東洋経済 2024年8月24日号に掲載

2024年9月4日掲載

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