経済を見る眼 財政健全化へ「新ルール」を導入すべきときだ

佐藤 主光
ファカルティフェロー

内閣府が1月17日に公表した「中長期の経済財政に関する試算」によると、2025年度の国・地方を合わせた基礎的財政収支(プライマリーバランス、以下PB)は4.5兆円程度(対GDP〈国内総生産〉比0.7%程度)の赤字になる見通しだ。

昨年の試算では8000億円の黒字見通しだったが、大幅な下方修正である。原因は13.9兆円に上る補正予算の執行の一部が来年度にずれ込むことや「年収103万円の壁」(所得税の課税最低限)の見直しで税収が減少することだ。

財政健全化への課題

PBの黒字化は長らく政府の掲げる財政健全化の目標だった。当初は11年度の実現を目指したが、リーマンショックなどを受けて20年度に先送りされ、さらにその後25年度へ先延ばしとなった。

内閣府は26年度のPBは現行の経済成長が続くケースで8000億円(高成長が実現すれば2.2兆円)の黒字になると試算するが予断を許さない。IMF(国際通貨基金)は対日審査の中で「少数与党下での政治的要求を踏まえると、赤字がさらに拡大する大きなリスクがある」と指摘。そのうえで「自然災害を含むショックに対応する財政余地を増加させるためには、足元においても明確な財政健全化計画が必要」と強調する。

財政制度等審議会も新規・借り換えを含めて170兆円超の国債発行が続いていることを問題視して「歳出構造の平時化に向けた取り組みを加速すべき」としていた。しかし、物価や金利の上昇などコロナ禍前とは潮目が変わったにもかかわらず、政治・世論の危機感は乏しい。むしろ国の税収が25年度に78兆円と過去最高を更新する見通しもあり、税収増を「国民に還元すべき」という声が増してきた。

仮にPBが赤字のまま金利が上昇すれば利払い費が急増して財政状況は一気に逼迫しかねない。社会保障や教育を含む公共サービスの提供に支障を来すうえ、自然災害や新たな感染症、戦争などの有事が起きても、機動的な財政対応が困難になってしまう。

新しい財政ルールを導入

ではどうすべきか。従来、財政健全化はPB黒字化という目標はあっても、これを達成するための手段は政府の裁量に委ねられていた。結果、財政拡大の政治的圧力を抑えられない。これを見直して財政ルールを導入するのが一案だ。

ここで米国の「ペイアズユーゴー原則」が参考になろう。新規の政策によって経費が増加するときは、同じ年度内に他の経費の削減などの措置を義務づける制度だ。所管省庁だけで対応できなければ官邸が削減対象を判断する。わが国でもそうした試みがなかったわけではない。政府の「こども未来戦略方針」(23年6月)加速化プランではその財源確保として「徹底した歳出改革等」を行うとある。

ペイアズユーゴー原則は補正予算にも適用できる。新たな補正予算策定に当たっても税収の上振れなどによる剰余金の2分の1(残りは財政法上、借金の返済に充当)を超える部分は翌年度の歳出削減で捻出するものとする。有事への対応は例外だが、国債で調達する場合、その償還財源をあらかじめ明確にする。こうした実効性を高めるための財政ルールが必要だ。

週刊東洋経済 2025年3月8日号

2025年3月17日掲載

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