経済を見る眼 ガソリン税の暫定税率廃止は正しい選択か

佐藤 主光
ファカルティフェロー

与野党はガソリン税の暫定税率を年内に廃止することで合意した。本稿ではこの問題点について述べたい。

ガソリン税の税率は1リットル当たり28.7円だが、1974年から道路整備を目的とした臨時措置として25.1円が上乗せされた。これが暫定税率だ。2009年に道路特定財源から一般財源化されたものの、暫定税率を含めてガソリン税の税率は維持されてきた。

一方で現在、燃料価格の高騰による家計・企業の負担を抑えるべく、ガソリン・軽油に対して補助金が支給されている。22年の開始以降、延長を繰り返して総額は8兆円余りに上る。

今回の暫定税率廃止案はこの補助金に代わる措置として登場した。仮に暫定税率を撤廃すると年間1兆円の財源が失われる。さらに今回の合意で見送られた軽油取引税の暫定税率も廃止すると、国・地方の税収減は同1.5兆円になる。

周知のとおり、わが国の国債の残高は1000兆円を超える。税収は過去最高を記録するが、防衛費、社会保障費などの歳出も拡大しており、財政赤字解消には至っていない。国債金利も上昇するなど日本の財政は予断を許さない。

このような中で、暫定税率廃止の合意では「代替財源の確保が前提」とされたが先行きは定かではない。参院選以降、消費税を含め減税への政治的圧力は高まるばかりだ。暫定税率廃止の財政負担は恒久化する懸念がある。

道路をめぐる状況変化も無視できない。かつては無駄な道路建設が問題視されたが、現在の大きな課題は老朽化だ。建設後50年以上経過した道路・橋の割合は23年3月時点で約4割、40年には約75%となる見通しだ(国土交通省資料)。

社会の高齢化・人口減少も進んでいる。自動車はとくに地方圏では「生活の足」とされる。しかし高齢者が運転を続けることはままならない。今後は公共交通の確保・充実が必要だろう。同じ1兆円の財政負担なら、ガソリン税の減税ではなく、これら新たな課題への対応に充当すべきではないか。

ガソリンには消費税も課されるため二重課税との批判もある。もっともOECD(経済協力開発機構)加盟35カ国中で日本は消費税・ガソリン税を含めた1リットル当たり税負担額は32位、小売価格に占める税負担の割合は29位にとどまる。

諸外国がガソリンに高い税を課すのには地球環境への配慮がある。

わが国も50年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする脱炭素目標を掲げる。二酸化炭素排出量のうち自動車が占めるのは16.5%(23年度)だ。ガソリン税の減税は、燃費が悪くかつ走行距離が長い利用者がより多くの恩恵を受けることになり、脱炭素の流れに逆行する。そもそも自動車関係諸税については、与党税制大綱の中でも自動車税のような「保有に基づく負担」からガソリン税などの「利用に応じた負担」への転換が求められてきたはずだ。

このようにガソリン税の暫定税率廃止は数々の問題をはらんでいる。与野党の合意は、わが国の財政・経済状況や交通事情、地球温暖化といった俯瞰的・長期的な視点を欠くことは否めない。

週刊東洋経済 2025年9月13日・20日号に掲載

2025年9月22日掲載

この著者の記事