経済を見る眼 経常収支から日本経済・財政の課題

佐藤 主光
ファカルティフェロー

財務省が公表した2023年の国際収支統計(速報)によると、海外とのやり取りで稼ぐ力を示す経常収支は20.6兆円余りの黒字だった。

内訳を見ると、モノの輸出から輸入を差し引いた貿易収支が6.6兆円の赤字になった一方、サービス取引の1つである旅行収支は訪日客の増加もあって3.4兆円の黒字だった。また、海外投資から得た利子・配当を含む第1次所得収支は34.5兆円の大幅な黒字を計上した。自動車や電気機器などモノの輸出で稼いでいた日本の国際収支の構造は大きく変化して、経常収支の黒字の内訳が貿易収支から所得収支に移っている。

発展段階と割り切れないわが国の現状

実際、電気機器は初の輸入超過を記録した。財務省は近年の貿易収支の赤字傾向の背景として「自動車に匹敵する黒字の担い手の不在、生産拠点の海外移転、基礎的資源の輸入依存」などを挙げている。国際収支の発展段階説によれば、貿易収支の赤字化が定着するものの対外資産の増加による第1次所得収支の黒字によって経常収支黒字を維持するのは「成熟した債権国」に当たるという。

しかし、発展段階の違いと割り切れないのがわが国の現状だ。

サービス収支の中ではデジタル関連の赤字が5.5兆円に上る。国内企業や個人から海外IT企業への支払いが膨らんだことがある。今後とも国内で国際競争力のあるIT企業が育たないまま、生成AI(人工知能)を含めて経済のデジタル化が進めば、赤字はさらに拡大するだろう。

また第1次所得収支の1つで黒字が20.6兆円となった直接投資収益については、配当などとして国内に還流したのは半分にとどまり、残りは海外子会社に内部留保されているという。海外投資で稼いだ資金を国内投資の拡充による国内経済の成長にいかせていない。

日本経済の課題明らかに

低成長のままでは賃金も伸び悩む。NISA(少額投資非課税制度)などで海外へ投資するにも手元資金が必要だ。多くの労働者はその資金を賃金から得ている。すでに資金を蓄えており海外から高い収益を確保できる大企業や富裕層と、それが難しい労働者などとの間での格差が広がりかねない。

加えて、電気機器やIT関連の輸入超過のように、国内に立地する企業の国際競争力が低迷し続ければ、将来的には第1次所得収支の黒字で貿易収支赤字を補填できなくなるかもしれない。経常収支そのものが赤字化する可能性は否めない。この場合、対外資産を食い潰す、発展段階説での「債権取り崩し国」になってしまう。

国の財政にとっても深刻な問題になるだろう。政府が巨額な財政赤字を出していても、経常収支の黒字に表れるように民間部門が海外から十分な利益を上げていれば日本の国力は高いと評価され、市場(投資家)は日本国債を信認するという見方がこれまではあった。その稼ぐ力が乏しくなれば国債への信認も揺るぎかねない。

このように経常収支の構造は「ものづくり大国」を自任しながら、実際には輸出力やIT化で苦戦したり、海外での収益が国内の成長機会につながらないといった日本経済の課題を示唆している。

週刊東洋経済 2024年4月20日号に掲載

2024年5月7日掲載

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