経済を見る眼 インボイスで消費税は国民に身近になる

佐藤 主光
ファカルティフェロー

今月から消費税のインボイス(適格請求書)制度が始まった。消費税では、課税事業者は仕入れ時に払った消費税額を自身の売り上げにかかる消費税額から控除する「仕入れ税額控除」を受けることができる。例えば、税抜き(本体)価格1万円の原材料を仕入れ、商品を1万5000円で売却したとしよう。税率を10%とすれば売り上げへの消費税額は1500円だが、事業者は仕入れ税額1000円を控除した500円を納税すればいい。

従来は、帳簿や請求書を保存していれば仕入れ税額控除ができた。10月以降は仕入れ先からのインボイスが控除の要件となる。

しかし、インボイスは課税事業者でなければ発行できない。仕入れ先が(課税売り上げ1000万円未満の)免税事業者の場合、先の例でいえば1000円の控除は受けられない。免税事業者からの仕入れが見直されるのではとの懸念が出ている。

このため免税事業者が多い個人・零細事業主などを中心に反対も根強い。ただし、免税事業者であってもインボイス発行事業者になって消費税の納税を選択できる。国税庁によると、7月末時点のインボイスの登録申請件数は370万件でうち課税事業者は278万件、免税事業者は92万件だった。

なお、インボイスが適用されるのは事業者間取引であり、商店や飲食店など取引相手がもっぱら消費者であれば大きな影響はない。

そもそも、欧州諸国を含めて消費税(付加価値税)のある国々では例外なくインボイスを導入してきた。むしろ、帳簿や請求書の保存で仕入れ税額控除を認めてきたわが国が例外なのだ。インボイスは中小零細事業者の利益にもかなう。前回の消費増税時には課税事業者が買いたたきをし、シワ寄せが下請け事業者に及んだ。インボイスでは仕入れの税抜き価格と税額が区分され、税額分はあらかじめ控除が約束されているため、買い手も価格転嫁を受け入れやすい。

政府は唐突にインボイス制度を実施したわけではない。消費税率の10%への引き上げに合わせて軽減税率が導入された2019年10月から4年の準備期間があった。さらに今後6年間は経過措置もあり、免税事業者との取引であっても一定の仕入れ税額控除が認められる。また、免税事業者が初めて課税事業者になって消費税を納める場合、激変緩和として売り上げにかかる税額を2割に軽減する。

とはいえ、インボイス制度に反発や唐突感を覚えた国民や事業者が少なくないのはなぜか。消費税といえば、コンビニやスーパーといった企業が納める税金という印象があるかもしれない。実際のところ、消費税はさまざまな取引に課されており、フリーランスなど個人事業主も無関係ではない。

かく言う筆者にも最近、出版社などからインボイス登録の問い合わせが来ている。フリーランス・副業を含め働き方が多様化する中、今後、消費者としてだけでなく、事業者として消費税に関わる者が増えるだろう。デジタルインボイスの普及など利便性を高める一方、インボイスが消費税を「自分事」にしていく契機になってもいい。

週刊東洋経済 2023年10月21日号に掲載

2023年10月25日掲載

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