経済を見る眼 少子化対策の財源をどうするか?

佐藤 主光
ファカルティフェロー

「次元の異なる少子化対策」の財源論が迷走気味だ。政府は、保育サービスの拡充、男性育休の取得率向上などの働き方改革、児童手当の所得制限の撤廃・高校生までの支給対象拡大といった子育て世帯への経済支援拡充の3本を柱に、今後3年間を少子化傾向の反転に向けた集中取り組み期間と位置づけてきた。

具体的な財源について結論は先送り

こうした少子化対策の強化のため来年度以降、新たに年間3兆円余りの予算が見込まれた。このため政府は当初、1.2兆円程度は医療・介護などの社会保障費を含む歳出改革で捻出、約1兆円を新たな「支援金」として公的医療保険の保険料に上乗せする形で確保する方針を打ち出していた。残りは「すでに確保した予算の最大限の活用」で賄い、当面は「つなぎ」の国債発行も行うという。

しかし、財源の確保をめぐっては異論が絶えない。社会保障費の削減には、さっそく自民党内から反対の声が出た。保険料の引き上げにも経済界が「企業の賃上げ努力に水を差す」と反発、むしろ財源として消費税を排除すべきではないとする。しかし、岸田文雄首相は新たな税負担には否定的だ。

紆余曲折を経て、具体的な財源については年末まで結論が先送りになった。他方、予算規模は3.5兆円にまで膨らんでいる。仮に財源の手当てができなければ、なし崩し的に赤字国債に頼ることになりかねない。赤字国債を償還するときの負担や金利上昇時のリスクが子どもたちの世代に押し付けられてしまう。これでは本末転倒だろう。

少子化対策であれ、同様に喫緊の課題になっている防衛費増であれ、今後しばらく続くという意味で経常的な支出には安定的な財源を充てるのが原則のはずだ。

財源の確保を明確に示すべき

政府は昨年の骨太方針において少子化対策の財源に関して「企業を含め社会・経済の参加者全員が連帯し、公平な立場で、広く負担していく新たな枠組みについても検討する」としていた。しかし、そうした理解はいまだに深まっていないようだ。

そもそも財源は「選択」の問題だ。ここでは現行の社会保障費などの歳出改革、社会保険料、そして本来は消費税の中からの選択となるだろう。問われるのは一つひとつの是非ではなく、いずれを選ぶか、あるいはどのように組み合わせるかという財源のメニュー(選択肢)である。

仮に保険料負担を避けるなら、例えば消費税率を上げるか、医療や介護の歳出改革をさらに進めるかのいずれかとなる。それでも財源確保が難しければ、不足分は予算の規模自体を見直す。このように少子化対策の予算制約を意識するよう国民や政治家に促すべきだ。

同時に時間軸の視点を取り入れることも重要だ。歳出改革には時間を要する、現在の経済状況に鑑みると負担増は難しいというならば、前述の「つなぎ国債」を発行してもいい。ただし、その返済には消費増税あるいは保険料の上乗せを充当するなど、あらかじめ償還財源を明らかにしておく。このように財源のメニューとその確保に向けた工程表を政府は示すべきだろう。

週刊東洋経済 2023年6月17日号に掲載

2023年6月27日掲載

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