経済を見る眼 来年度予算には「賢い支出」が不可欠だ

佐藤 主光
ファカルティフェロー

2021年度予算に向けた各省庁の概算要求が9月末に出そろった。要求総額は105兆円超で過去最大だ。

通常、概算要求には前年並みといった基準が設けられ、予算の膨張に歯止めがかけられている。しかし、今回は前年度並みの要求額を基本とする一方、新型コロナウイルス対策などには別枠として要求額に上限のない「緊要な経費」の計上が認められた。加えて、金額を定めない事項要求が幅広い項目にわたり、例年にない規模になっている。

例えば、検査体制の拡充を含むコロナ対策の費用や不妊治療への助成金などが事項要求となった。さらに昨年、約5000億円とされていた高齢化に伴う社会保障費の自然増も今年は明記されていない。事項要求や自然増は今後の予算編成予算編成の中で明らかになっていくことから、来年度の予算規模は150兆円より大きく膨らむ見通しだ。厚生労働省分だけで現在の要求額33兆円から最終的に数兆円上乗せされるとの報道もある。

財務省は予算の中身を大胆に重点化することを省庁に求めているが、コロナ禍に便乗した要求も指摘されている。今年度の国の歳出額はすでに160兆円超に膨らんだ。結果、財政赤字は90兆円を超え、歳出と税収の乖離であるいわゆる「ワニの口」は広がっている。このままでは来年度以降もふさがりそうにない。コロナ禍のような未曾有の危機において財政出動で経済・社会機能を維持すべきことは論をまたないが、財政規律を無視してよいわけではない。将来に禍根を残さぬよう予算のワイズスペンディングが求められている。

ではどうしたらよいのか。わが国では従前、コロナ対策やデジタル化のような新規の財政ニーズを財政規模の拡大でもって満たしてきた。本来、政策評価(PDCAサイクル)を徹底させたうえで既存の事業の見直しがあってしかるべきだ。こうした事業の中には漫然と続けられているのも少なくない。

デジタル化が進めば不要になるものもあるだろう。また、政策全体に整合性がなければならない。例えば、文部科学省は公立小中学校での少人数教育(30人教育)の実施に係る経費を事項要求としている。他方、ITを活用した個別学習を推進する「GIGAスクール構想」もある。個別学習が徹底されればクラスの規模はさほど重要ではなくなるかもしれない。

また、デジタル化などの予算も縦割り行政のため各省庁がバラバラに要望している。中には省庁間で重複、類似した事業もありそうだ。これらを整理し一元的にデジタル化を推進することが望ましい。

社会保障費の自然増もこれまでどおりではなさそうだ。コロナ禍を契機に個人の健康意識や予防行動も変わるかもしれない。「かかりつけ医」の普及を含めて医療提供体制が見直されれば、医療費の適正化につながる。これらを踏まえた自然増の新たな資産があっていい。感染対策など支出額の見通しが難しい分野については、事業ごとに予算化するのに代え、関連した事業をまとめた「枠配分予算」として、その中で融通を利かせるようにするのも一案だ。

『週刊東洋経済』2020年10月17日号に掲載

2020年11月9日掲載

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