経済を見る眼 財務省不信がもたらすもの

佐藤 主光 ファカルティフェロー

森友学園との国有地取引をめぐる公文書の改ざんや事務次官のセクハラ問題などをめぐり、財務省が揺れている。

政府は2025年度に基礎的財政収支を黒字化させる新たな財政再建の目標を立てた。しかし、 財務省への不信感は消費税の再増税を含めて財政再建に悪影響を与えるという懸念がある。財務省は信用できないから財政再建にも賛同できない、という世論が高まりかねない。

もちろん、財政再建は財務省のために行うわけではない。財政再建の狙いは、財政の持続性を確保することによって、将来世代を含む国民が安心して生活できるよう、社会保障などへの不安を解消することにある。

もっとも、わが国では組織・個人の信用が重視されてきた。実際、内閣支持率の調査でも支持する・支持しない理由に「首相の人柄への信頼」を挙げる回答者が多い。「何(財政再建)をするか」より、「誰(財務省)がするか」が重要といえる。これを否定するわけではないが、信頼できる政治家や官僚なら、その誰かに政策を白紙委任してよいわけでもあるまい。ポピュリストの台頭を招き、わが国の民主主義自体を損なうことにもなりかねない。

財務省の信用回復には時間がかかるとしても、速やかに確保すべきは「何(財政再建)への信認だろう。財政再建の道筋を明らかにするとともに、消費税増税と併せて「証拠に基づく政策形成」として社会保障・地方財政等の分野で歳出改革を進めていくべきことは言うまでもない。

加えて、政治的に中立な将来の財政見通し(試算)をつくることだ。高い成長率と税収増を見込むなど、推計が過度に楽観的であれば歳出に歯止めも利きにくい。結果として財政再建は進まない。

わが国では内閣府が「中長期の経済財政に関する試算」を定期的に公表してきた。しかし、 アベノミクスの脱デフレ・成長戦略を担ってきた内閣府自身の試算では「お手盛り」感は否めない。他方、財務省の「我が国の財政に関する長期推計」などはより堅実な推計ともいえるが、消費税を増税するための「陰謀」との批判が付きまとう。

こうした政治的バイアスを除くために、英国では「財政責任庁」(10年設立)という独立財政機関が財政・経済の推計を行ってきた。将来の経済見通しから経済政策・増税の影響(近年ではEU離脱のインパクトを含む)を試算している。ただし、財政責任庁の役割はあくまで推計であって政策への評価はしない。政策の当事者にならず、第三者的な視点を確保する工夫といえる。オランダの経済政策分析局や米国の議会予算局も独立財政機関としての長い歴史を持つ。

これらの機関の試算が正確というわけではない。それは、経済の動向には不確定要素が多いからだ。とはいえ、試算の仕方や前提条件などの情報を開示することで透明性は高められる。 政策を誰が行うかを重んじるわが国において、政治的に中立な独立財政機関の試算は財政再建への信頼を得る有効な手法といえそうだ。

『週刊東洋経済』2018年5月26日号に掲載

2018年6月6日掲載

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