経済を見る眼 改ざん騒動と証拠に基づく政策

佐藤 主光 ファカルティフェロー

まだ3月だが、「捏造」と「改ざん」は今年の流行語大賞の候補になりそうだ。

捏造騒動は、安倍晋三首相が1月29日の衆議院予算委員会で、働き方改革の一環である裁量労働制の労働時間について、「平均的な方で比べれば、一般労働者よりも短いというデータもある」と答弁したことに始まる。この答弁の根拠は、2013年度の労働時間等総合実態調査(総合実態調査)で、裁量労働制で働く人の労働時間が9時間16分と、一般労撥者より20分程度短いという結果に拠っていた。

この調査は全国の1万1575事業場を労働基準監督官が訪ね、その事業場の平均的な人に対して1日、1週間、1カ月、1年の残業時間を聞き取りしたものである。しかしその後、一般労働者には最長の残業時間を尋ねたのに、裁量労働制で働く人には単に労働時間を回答させるなど、異なる調査結果を比較していることがわかった。

さらに、同じ人の残業時間が1週間よりも1カ月のほうが短かったり、月や週の単位では残業時間があるのに、日単位で見るとゼロになっているケースや、残業時間が1日15時間超になっている場合など異常な数値が散見された。このため、メディアなどはデータの捏造だと政府を激しく批判した。安倍首相は答弁を撤回したものの騒ぎは収まらず、働き方改革関連法案から裁量労働制に関する部分を切り離し、今国会への提出を断念するに至った。

この騒動は、官僚による官邸への忖度とは別次元の問題を露呈させている。政府は「証拠に基づく政策形成」(EBPM)を推進しているが、その証拠たるデータの分析能力に欠けているということだ。

総合実態調査のような聞き取り調査で回答自体に誤りがあるケースは少なくない。したがって通常、分析に当たってはデータの中から異常値を取り除く。データは正しいことを前提にするのではなく、これを精査することで正しさを担保する。また、一般労働者と裁量労働制の労働時間の違いを単純に比較すること自体にも問題がある。労働者間でバラツキがあり、企業の業種や規模による違いもあろう。これらを考慮して統計的手法でもって有意な違いの有無を検証するべきなのだ。

そもそも、裁量労働制になっている労働者の割合は、その対象となる専門業務型(研究開発など)、企画業務型でも低い水準にとどまってきた。働き方改革は裁量労働制の対象業務を拡大させることを狙いとしている。対象が異なる以上、現行の労働時間が改革後もそのまま当てはまるとは言いがたい。なお、データが誤りだったことは逆に裁量労働制が長時間労働につながりやすいことを結論づけるわけでもない。いずれにせよ、改革後にあらためて調査、検証する必要があろう。

本気でEBPMを推し進める気が政府にあるなら、官僚のデータ分析のスキルアップが不可欠だろう。さもなければ政府が実施する各種調査の元データを早い段階から広く公開して、データの誤りを含め、外部の専門家・研究者の知見を得ることだ。

『週刊東洋経済』2018年3月31日号に掲載

2018年4月19日掲載

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